バイキンマンが負け続け、アンパンマンが勝ち続けるわけ:『メガマインド』
世の中に流通している物語の多くは「正義の側」から描かれていますが、ドリームワークスが制作した『メガマインド』は「悪者の側」の視点から描かれています。
いわばバイキンマン的視点ですね。ここがちょっと新しいです。
MEGAMIND: Ultimate Showdown (輸入版:北米・アジア) - PS3
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この映画の主人公であり悪者であるメガマインド少年は、バリバリの知性を誇る天才的な宇宙人がなのですが、全身が青くて頭が大きいので、学校のクラスメイトたちからは嫌われてます。
校庭でドッチボールをするとき、リーダー格のヤツがクラスメイトをドラフト指名のように順々に指名していくのですが、メガマインドはもちろん最後まで指名されません。
悲しいですね。昔の古傷がチクッと疼きます。
そんな学校での人気者は、のちに正義のメトロマンとなる白人の少年。彼も宇宙人で、目からビームを出したり、空を飛び回ったりして、メガマインドばりにヘンなヤツ。でも、見た目が爽やかなイケメンなので、みんなからはモテモテです。
本当は心優しいメガマインドは、メトロマンらにイジメられることで悪の道に進むことを決意します。
それから数年後。
大人になった悪者メガマインドは正義のメトロマンに挑み続けますが、アンパンマンにやられるバイキンマンのごとく、すべての戦いに敗北します。
が、ある日、彼はたまたまメトロマンに勝ってしまうのです。
「・・・あれ? もしかしてオレ、勝っちゃった? や、やったぜッ!」
思いもしなかった勝利に戸惑いながらも、歓喜するメガマインドですが、数日後には元気を失ってしまいます。
「欲しいものはなんでも手に入るようになった。でも、オレにはもう倒すべき敵はいない。これからいったい、どうすればいいんだ?」
メガマインドの生きる力となっていたのは、メトロマンという正義あってこそだったんですね。
この「生きる力の喪失」という点では、『Mr.インクレディブル』と似ています。
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『Mr.インクレディブル』は「正義の側」から描かれた物語ですが、ヒーローとして活躍することを禁じられたMr.インクレディブルは、メガマインドとおなじように、無気力な人間になってしまいます。一日中、ボーッとして過ごす。仕事も家族も目に入らない。
しかし、両者は再び生きる力を取り戻します。
それはいつか?「You」のために生きるときです。
Mr.インクレディブルはともかく、メガマインドは「環境」に恵まれていませんでした。刑務所の囚人たちに育てられ、全身が青色で、頭が大きな宇宙人ですから、グレるためのお膳立てはすんでます。そして順調に悪者の道を歩み出すのですが、正義を倒してしまったので、他にやることがない。そこで女の子にモテたくなるんです。でも、悪い奴はモテません。当然ですよね。みんなに迷惑をかけてる人間ですから。
ある日、彼は気になっている女の子から身を隠す必要があり、別の人間に変身できる機械を使い、バーナードという平凡な人間になりすまします。当然、変身していることを彼女は知りませんから、バーナードという普通の男として接してくれます。
もちろん、そいつの正体はメガマインドです。でも、バーナードという普通の人間として扱われると、「こんなオレにも彼女を作るチャンスがあるんじゃないか」という気がしてくるんですね。だんだん彼女に好かれたくなってくる。
そうして少しずつ彼女と親しくなり、何度目かのデートをしていたとき、
「この通りはね、昔、お母さんと一緒によく歩いた道なの。でも、この街をメガマインドが支配するようになってから、すっかり汚れてしまったわ」
という話を耳にします。
それを聞いたバーナード、いやメガマインドは、その夜、こそこそ街に出かけていってゴミ掃除をします。
これ、もう悪者じゃないですよね。悪者は、自分が汚した街を掃除なんかしません。メガマインドは彼女に好かれようとして良い奴として振る舞っただけですが、そうしてるうちにだんだん良い奴になっちゃうんですよ、不思議なことに。
この「所作が私をつくる」というのは、テーマのひとつであり興味深いのですが、とにかく女の子にモテるようになる。こうして良い奴になりつつあるメガマインドのまえに、悪人が登場します。すごいひねりの効いた展開です。当然、この街を汚す奴を倒すために、メガマインドは悪人との戦うことになる。
バイキンマンって必ず負けるじゃないですか。アンパンマンは必ず勝つじゃないですか。いままでぼくは、これを物語的ご都合主義だと考えていたのですが、ちがったんですね。
正義には勝つだけの理由がある。「あなた」がいてくれたからこそ、勝ち続けることができた。それが生きる力を、頑張る力を与えてくれるから。
メガマインドやMr.インクレディブルは、そうして生きる力を取り戻していきます。
現実はそうじゃないかもしれません。正義が勝ちつづけるというのは、あまりに理想的な考え方かもしれません。おそらく、正義も負けるときがある。
でも、「正義は必ず最後に勝つ」という、この理想的な物語を映画というパッケージにして、世の中に伝えようとしている制作者たちの志に、ぼくはグッときました。
やっぱ、そうでなきゃね!
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