読書 「アラン 幸福論」

 伊勢丹高島屋などのデパートでぶらぶらしていると、前衛的でおしゃれな
ブランドものデザインの服そのものよりも、まず高額なプライスに目が奪われる。


 貧乏性の僕は良く思うのだけど、「1桁間違えてんじゃないの?」
とたじろかせるくらい、高価だったりする。


 そんなお金ににはまるで縁のない自分だが、数ヶ月前に自己投資と称して、
ヤフオクpanasonicのlet's noteのw5という型のノートPCを買った。


 一番安く買ってやろうと思って、ネットで落札価格の相場を調べ挑戦。
結果、6万ちょっとで落札。


 やったぜ、ラッキー。と浮かれ気分に使ったのも束の間、後日、
手数料やらなんやらで、結局相場価格と代わらないくらいの
出費となってしまった。


 「どんな価格も必ず適正である」といった岡本先生のこの言葉を
しみじみと痛感した。(カリスマコンサルタントの稼ぐ超思考法より)
しかし、恐れ多いことだが、一つだけ例外があるのではないかと
感じられるものがある。


 それは本の価格である。


 どう考えてもこの商品につけられる販売価格は安い。
安すぎるといってもいいくらいだ。


 ブランド物の洋服を買って自分を着飾り気分よくなるのに数万円はかかる。
けれど人間の叡智がギュッと本と言う媒体に圧縮されたものがコーヒー2杯分程
(岩波などの文庫本)のお金で得られるという買い物のは、少し大げさにいえば
もってけドロボーの世界(@本上まもる)である。


 一般的にお買い得商品にはなんらかの事情(賞味期限が近いとか、
展示品だとか)があるが、本にはそれが当てはまらない。


 先日エリエス代表の土井英司さんが発行している
ビジネスブックマラソンで哲学者アランの「幸福論」が
紹介されていた。(出版社ディスカヴァー 税込1785円)


 アランの幸福論は世界三大幸福論と呼ばれる書物の一つらしく、
(他はラッセルとヒルティ)未読で興味を惹かれたため、amazonですぐに購入。


 っでつい先ほど、読了。
読了後の感想としては、読み進めれば進むほど、震えと驚きとが混ざり、
感動がとまらなかったというのが正直なところ。


 少し引用してみる。(引用本は岩波文庫版)

・人間は快楽を求めるものだと、どの本にも書いてあるが、そうとはかぎらない。
むしろ人間は労苦を求めている、労苦が好きであるようにみえる。


・人間は自分からやりたいのだ、外からの力でされるのは欲しない。
自分からすすんであんなに刻苦する人たちも、強いられた仕事はおそらく好まない。
(中略)しかし、自分の意思で労苦をつくり出すやいなや、ぼくは満足する。


・幸福はいつもわれわれの手から逃げていくといわれている。人からもらう幸福
については、それは正しい。人からもうら幸福など、まったく存在しないからだ。
しかし、自分でつくる幸福というのはけっしてだまさない。


・どのような恐怖を癒すのも、どのような抑圧的感情を癒すのも治療法は同じ
なのだ。ことがらの核心にじかにぶつかって、何が問題なのかを見なければならない。


・しあわせになる秘訣の一つは、自分の気分に無関心になるということだ。そのように
軽蔑された気分は、犬が犬小屋にもどって行くように、動物的な生にもどる。
(中略)つまり自分のあやまち、自分の痛恨から、すなわち自己を責めるいっさいの
みじめな反省からほんとうの自分を切り離すことである。「この怒りだって、おさま
りたくなればおさまるさ」ということだ。


・人間には自分自身以外に敵はほとんどいないものである。最大の敵はつねに自分
自身である。判断を誤ったり、むだな心配をしたり、絶望したり、意気沮喪する
ようなことばを自分に聞かせたりすることによって、最大の敵となるのだ。


 僕らは1万円札は福沢諭吉、旧千円札は夏目漱石だったという事実は知っている。


 福沢諭吉が「学問のすすめ」を書いており、夏目漱石が「吾輩は猫である
を書いた。これは周知の事実。しかしあまり読まれてはいないのもまた事実
なんじゃないかと思う。


 名前を知っているだけで、なんとなく知っていると錯覚に陥ってしまっているし、
そもそもそんなに面白く興味深いことが書いてるようには思えないという先入観が
読書を障害物になってしまっているんじゃないだろうか。


 しかしこの種の古典的名著には、ぼくなど凡人がいくら考え、思索しても気付けない
金言、助言が散りばめられている。


 だから、古典を紐解いて、私淑して、書を通して教えを請う。


 すると日常生活を送っていた上で抱えていた素朴な疑問の対象であった人間という存在
について、また世の中の現象といった見えにくいものの本質が少しずつ見えてくる。(ような気がする。)


 自分一人では行うことのできない考えるという営み。思考の飛翔。枠組みの崩壊と再構築。


 手にとって対峙している本を相手に行うこの孤独な営みがたまらない。
数百円でこれほど幸せに、また刺激的な体験をすることが他に可能なのだろうか。
不幸にして僕はそれを知らない。