映画鑑賞→傑作「ミスト」

土曜の昼に「ミスト」をみた。


力のはいった良質な映画だった。傑作だと思う。
ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』といった作品をとってきているダラボン監督の作品のなかで、
一番見応えがあったように感じる。
とにかくラストが衝撃的。ぜひ劇場で確認してもらいたい。
まぁ、ラストには当然言及できないので、映画をみていて感じた恐怖にてついて感想(っていうか、解釈)
を記しておこうと思う。


この映画で怖いなぁとおもったのは、キリスト教原理主義福音派のおばちゃん(マーシャル・ゲイ・ハーデン)。
最初は何かと因縁をつけてくる嫌みなババアだなぁくらいにおもってみてたら、だんだんそのおばちゃんが
憎いというより恐ろしくなってくる。
これでは意味がわからないだろうから、簡単にストーリーの説明を。


昨夜からひどい雷雨がつづき、ようやく朝方には静まったアメリメイン州の田舎町。
食料品を補充するために地元のスーパーマーケットには住民があつまってきていた。
そこではとても静かな時間が流れている。
すると突然、外の方で数メートルさきがまるでみえないほどのとても濃い霧が立ちこめて来る。
前がまるで見えないくらい濃い霧。なんだろうと不思議におもってみつめていると、
そこへ突然鼻血をながしながら、戦々恐々とした顔でおじさんが駆け込んで来る。


「き、霧の中になにかいる」


かくして謎の生物がの次々に襲いかかって来るという異常現象がはじまる・・・。



この異常現象を、おばさん(マーシャル・ゲイ・ハーデン)は(たしか)神が罪の償いを求めているのだという。
われわれ人類は沢山の罪を犯してきた。その罪を贖罪するために、神は怒っているのだというようなことを
聖書を片手に滔々と述べる。
当初、住民らは「なに、このおばはん。うざい」ってかんじで疎んでいたのだけど、昆虫を100倍巨大化した
ような生物がつぎつぎとスーパーの窓ガラスに向かってバンバンと襲いかかって来ると、だんだんおばさんの説を
信じ始めちゃう。
かくして、それまでおばさんの説を懐疑的に思っていたはずの人々が少なくなり、いつしか主人公らは少数派に転
じてしまう。
(多数派から少数派になってしまう恐怖と言う点では、『アイ・アム・レジェンド』と同じ)
しかし、なぜ急にと不思議に思われるだろう。
その理由はたぶん恐怖である。
うじゃうじゃ飛び回る生物(噛まれると変死する)、いつ晴れるか判らない霧、まるで外の様子がわからない恐怖。
この先、われわれに救いはあるのだろうか、という先の見えない恐怖。
こうした恐怖が人々の心を支配したとき、キリスト教原理主義者のおばちゃんの言説は素直に受けていられrようになっていく。


キリスト教の教義は有名な「信じれば救われる」というもの。そしてこの世の終わりに、神がおりてきて救済されるという
物語である。たとえ死んだとしても、最後の審判の日に神が生きていたときのままの肉体を返してくれるということになっている。
といったものであるから、神を信じれば今前景に広がる耐えきれぬ恐怖と対峙せずにすむ。
ここが肝要なところ。
外部の情報がまるではいってこない状況下において、救いの可能性を判断するのは難しい。
そんなとき、神を信じさえすればあとで救われるという安心感(希望)が得られる。
だとしたら、どのような残酷な死に方をするか判らない現実を生きるより、後に救われるという妄想を夢見て生きたほうが
いいと思い込むのは人情なのかもしれない。移り気になるのも理解できる。


こうして新たなポジションを得た人々(信者たち)は豹変する。
こんどは、自分たちとイデオロギーを異にする人々(主人公ら)を排除しようとする。(それが、自分たちの利益に反するものだから)
それを指揮するのが原理主義者のおばちゃんなのである。
このとき、いっさい建設的な議論がなりたたない。
キリスト教の教えが絶対であり、それ以外の考え方は退けられるからである。
いくらおばちゃんが現実を曲解して解釈し、それをこじつけて神が怒っておられるのだとめちゃくちゃなことをいい、
その主張やロジックに瑕疵が見受けられても、その欠点を指摘することには意味がない。
多数派となった原理主義者軍団のほうがパワーがあり、それに反論する主人公らの少数派の主張(現実的主張)は、彼女たちにとって
知りたくも見たくもないものであり、邪魔なものでしかないから。
ここでは物事の正当性を議論するのは無意味なのだ。


かくして、いままで互恵関係を結んでいた同志は同志でなくなり、目の前に存在する人々は敵対者となる。
話しの通じなくなった(希望を失った、逃避した)人間という存在者が、対立者になる恐怖。
これはほんと怖かった。だって話しが通じないから、なにをいってもムダなのだ。
いきなり包丁をブンブン振り回して、生け贄をよこせーと襲いかかろうとしてくる。
…ぞぉ。


でもって、とんでもなく難しい問いを観客につきつけてくるラストシーン。
やはり今回のダラボンの新作は、傑作だ。