読書【「やんちゃ」によって「暴力」は肯定される】→『テレビ救急箱

テレビ救急箱ってへんなタイトルだよね。
でも、これは本書の役割をすっきり表現しているんだよ。

  

オダジマは医者ではない。だから、相手が瀕死でも、治療はできない。治療するつもりもない。
ま、あえてトドメをさすこともしないが。

 
(中略)とすれば、応急処置として消毒をしておくくらいが精一杯。(『テレビ救急箱』p5)

 

そう。本書はTVをみることによって生じた擦り傷(モラルの劣化、暴力の肯定)をつくってしまった体に、
応急処置として消毒液をピュッピュとつけるために編まれている。ん〜、わかりづらい比喩でごめんね。


っで、オダジマ先生は、近頃のテレビでは「やんちゃ」や「ドS」(以下に解説あり)によって「暴力」が肯定
されるようになった、と現代人のケガの深刻さや原因について看破してる。

「やんちゃ」という言葉が、スタジオトークの中で使われるようになったのは、たぶんこの五年以内の
ことだと思う。それが、この二年ほど、流行語みたいなことになっている。で、「やんちゃ」という用語
の使用頻度の上昇にあわせて、テレビの「やんちゃ」も野放図に拡大している…気がするのだが、気のせ
いだろうか。だと良いのだが。


(中略)


 昨今のテレビの文脈において、功なり名遂げた人の非行歴は「恥」ではない。むしろ「栄光」に分類される。
でなくても、「やんちゃ」は、克服した「障害」や乗り越えた「ハンデ」と似た意味合いの、「戦歴」として
カウントされることになっている。
 何が言いたいのかって?
 つまり、「やんちゃ」という言葉を通じて、テレビの中で、暴力がやんわりと肯定されつつあるということだ。

(中略)


 「ドS」(←「どえす」と発音する)という言葉も、いつの間にやらゴールデンのバラエティーの中で堂々と
使われるボキャブラリーに成長した。(中略)こういう言葉が、小学生がテレビをみる時間帯に連発されている
こと自体、異様な状況だと思うのだが、問題は、性的なニュアンスにあるのではない。性的な意味を取り除いて
もなお、「どS」には「残酷さ」「強圧的傾向」「虐待趣味」ぐらいな不吉な響きが残存している。それになによ
り、「ドS」みたいな性癖を、本人が自慢げに語るトークを「アリ」としているスタジオの倫理感覚が、どうにも
ならない。ここにおいて「暴力」は、ものの見事に肯定されている。(同書 p217〜219)

 

そういえばいつからか、「やんちゃ」していた紳介の昔話(昔の非行)はおもしろい、という認識をするように
なっている。非行を美談・面白話しにスリかえてしまう彼の話術・レトリックの巧みさにだけではなく、毎日届け
られる情報というのに体が受容態勢をとってしまっているのかもしれない。習慣の効用とでもいうか。


でも、自分がまだ学生やってたら、きっと面白くなど聞けやしないだろうな。オレの青春を邪魔するんじゃねぇよ!
Fuck you!ってな感じで。暴力に対する反発心を忘れなかったと思う。
・・・、するといまはけっこうな重傷なのかもしれない。

 
そういえば中坊の頃の話しだけど、ある一人の生徒を集団で黙殺するという非道なイジメがあり(とくに理由はなし。
そこが怖い。いきなり始まる)、それに加担していたことがある。しかし加害者(その学年の95%くらいが参加してた)
はどこか罪悪感を抱えながら、やっている自覚が多少なりともあった。ように思う。
(だからまぁ水に流そうや、と過失を擁護してるんじゃないです。念のため。)
 

そのとき、罪の意識を自覚させてくれいていたのが学校のセンセイである。
それほど熱心でもなかったが、それでも「イジメはいかんよ」と勧善をすすめ、モラルらしきものを説いておられた。
あの言葉が十全に発揮されることはなかったが、ぼくらに倫理観ってものを意識・保持させる装置としては機能してい
たんじゃないだろうか。どれほどの成果があったかどうかは別にして。しかし大人になったぼくらに、そんなことを
いってくれる人がいなくなってしまった。
 

なんの番組か失念したのだが、先日、夕食をぱくぱくたべている時にテレビに出ていたふつーのおじさんが、「さいきんは
世の中がおかしくなっちまった」とインタビュアーによって向けられたマイクにちょっと疲れた顔をして語られていた。
これには同感だった。「ん。なんかおかしいぞ」ということについてはうすうす僕らは感づいている。
でも、どこが?それがわからない。
 

 オダジマ先生はそのおかしな点、おかしくなってきた原因を指摘し、ぼくらに「はいよ」と消毒液をわたしてくれる。


まぁ、だからといってこれを塗っただけでコトが解決するわけじゃない。消毒液をかけただけじゃね。学生時代のいじめが
センセイのおコトバだけで解決しなかったように。でも、消毒しておかないと、膿んだ傷はどんどんヒドくなっていくからね。
それに気づかずにご臨終なんてことになっちゃうのは勘弁だ。なんとか自分だけは、事前に対処して生き残りたい。


ってことで、ケガしちゃったら、ヒドくならないうちに手当をしておこう。シュッシュ。

テレビ救急箱 (中公新書ラクレ)

テレビ救急箱 (中公新書ラクレ)