映画【DVD鑑賞】→『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大

昨日に引き続き、原恵一の監督&脚本作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶア
ッパレ!戦国大合戦』(「がっせん」ではなく、「かっせん」と読むらしい)
のレビュー。



今回の舞台は戦国時代。
ここ掘れワンワンとシロと一緒に裏庭を掘っていたら天正2年の戦国時代へ
とタイムスリップしてしまうしんちゃん。
自由奔放な息子が不明になったことに気付き慌てる両親。父ちゃんは気合い
で戦国時代にタイムスリップしてしまったことを調べ上げ、もしこの世界に
戻って来れなかったらどうするのと尻込みする母ちゃんを説得するシーンが
キマってる。


しんのすけのいない世界になんの未練がある」


こんな侠気あふれる台詞いわれちゃ、母ちゃんも尻込みしてはられない。
かっこいいぜ、とうちゃん。
『セント・オブ・ウーマン』でアルパチーノが青年を救うために代弁する名
演説(3秒しかないけど)くらいに。


そんなナイスガイな父ちゃんだけど、カッコいい所ばかりではない。
春日部城の美しいお姫様廉(れん)の登場につい顔がほころびデレデレして
必要以上にダンディーに振る舞ってしまう男衆(父ちゃん、しんのすけ)。
美女との一緒にすごす時間のなんと愉快なことよ。あんまりにも楽しいもの
だから周りが見えずにふはははと悦に入ってつい高笑いしてしまう。っが、
一息ついたころに気づく女たち(ひまわり含む)の「・・・」攻撃。
目で殺された男のなさけない姿がとってもユーモラス。


っで、本作はアニメという侮られやすい形式ながらも、時代考証も文献など
にあたって丁寧に書かれている。手元にある歴史書をちょっと紐解いてみれ
ば、戦国時代は飢饉の時代で慢性的に食料が不足していたという。
ゆえに戦になれば足軽たちがせっせと刈田狼藉(=かりたろうぜき。人の畑
の稲を勝手に刈り取ること)に励んだとされており、本作では実際にそのシ
ーンをみてとることができる。合戦シーンでもそれはみれる。


まぁ、タイトルで謳ってるわけだから、戦は当然としても、なにも終始戦っ
ているばかりいるではない。
この作品は恋愛もいける。
闊達な武士と気丈で奥ゆかしい姫は幼なじみで、お互い心を寄せ合っている。


そんな姫が政略結婚のため嫁ぐ段になる。国の繁栄安泰のために井尻又兵
(いじりまたべえ)への想いを捨てて。
ステレオタイプになりがちな設定ながら、プロの声優らによる台詞術によっ
てが観客を二人を支援したいという想いへと誘い、身分や家柄といった障害
物に引き裂かれる二人の姿についグッさせられてしまう(うまいな声優陣&
演出家)。
女性を「ヤル」ためだけの「モノ」という記号に読み替える現代の動物的思
想はやはりはしたないと確信を強める。


またキャラクター造形も秀逸。
国のために死ねる侍(しかも父ちゃんより年下)とは違い、(比較的)死の
危険性がない現代に生きている父ちゃんには彼ほどの覚悟はない。
そんな異なった時代を生きるものを対比することで、精神性の違いを浮彫り
している。きっと10歳くらいの子どもでも今のオレくらいの精神年齢だった
んだろうなぁ。
しかし、精神年齢と感動には関係がない。
姫に結婚を断られたことを口実に、国を大きくしようと目論んだ大名高虎は
春日城に攻め込み圧倒的な兵力にものをいわせ大打撃を与える。
そんな敗北必至の光景を目の当たりにしたとき、さんざん逡巡しながらも世
話になった侍たちを助太刀しにいくする父ちゃんの勇姿は、凡人はなればこ
そ感動をもたらすものである。美味しいとこどりだね、父ちゃん。


ただ原監督は弱者が強者を一刀両断する時に感じるあのスカっとする安易な
カタルシスを与えはしない。
ともすると、思考停止による水戸黄門的オチにしてしまうところを、絶妙な
ツイスト(=ひねり)を加えることで、弱者のルサンチマン的想いを一つ次
数を繰り上げたオチへと昇華させる。
人を斬って成敗するだけが、時代劇のただしいオチではないのだ。
で、最後はしっかり泣かせるんだから、む〜見事。