『おおきく振りかぶって』

カットしていただいているあいだ、美容師さんに勧められて読んだ。

おおきく振りかぶって (1)

おおきく振りかぶって (1)

おもしろい。
「女に監督は勤まらない」「キャンチャーは球をキャッチできれば誰でも勤まる」
という超野球初心者が抱くステレオタイプ的偏見を序盤できれいに「それは偏見
というものですよ」と暗に表現して、偏見を修正させるところがうまい。
門外漢には、野球を見る目を涵養することのできるものになってるので(キャッ
チャーが厳密なロジカルシンキングのすえに、投球を組み立てていたとは!)、
野球の見方がガラリと変わるマンガだといえる。


ただ、とりあえず3巻まで読んだ感想はまあまあ。
というのも、読者の感情を強く揺さぶるような、過去の出来事(痛み)を描いたエ
ピソードがまだ出てきていないから。
そこがすごく惜しい。
4巻以降は出てくるのかな。
観客をその世界の中に(または、主人公に同一化させるのに)引きずり込む導入部
がめちゃくちゃうまいのが、思い当たるなかでは『ボーイズ・オン・ザ・ラン
宇宙兄弟』がある。
両者には多くの人を共感させる背景がある。
人をある世界観の中に誘導するには、どうしても強力なバックストーリーが必要に
なる。
経験の共有(それも「痛み」を伴っているほうがいい)が、同一化のカギだから。
ただ、この作品はあえて「今」を集中的に描いていて、のちのち、「過去」を挿入
することで、より盛り上げようという構成を目論むんでいるのかもしれない。


難癖ついでにもうひとつだけ。
主人公の野球チームのキャラの顔がわりと似ていたりするので、誰が誰なのか判別
しづらく少し混乱する。主要人物以外のキャラ説明(掘り下げ)が不足しているの
が原因かもしれない。
ただ、そのかわりに多くのページを割かれている主要キャラの人間心理の機微(憧
れの人が、実は自分に対してコンプレックスを抱いてた、みたいな)の描写は現実
にありそうで秀逸だと思う。