物語内・外の整合性:『チャーリー・シーンのミスター・グッド・アドバイス』


 原題は『Good Advice』。
 このタイトルを知って、ハードルを上げてるなぁ、という印象を受けました。
 なぜなら「アドバイス力」が問われる映画だから。


チャーリー・シーンのMr.Good Advice [DVD]

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 映画『ソラニン』(宮崎あおい)のライブシーンのように、本作ではアドバイスのクオリティが求められます。
ソラニン』に登場する観客は聞き入ってますが、物語外にいる観客は微妙なリアクションになってしまいます。心を震わせる「何か」がないんですよね。


アジカンver



宮崎あおい ver


 音楽映画では音楽のクオリティが求められるように、本作ではどうしても優れたアドバイスが求められます。人生相談の回答者・ライアン(チャーリー・シーン)の回答に観客が「これはすごい!」と感心してしまうようなものです。しかし、そのレベルに到達していないアドバイスは、先に挙げた映画のように魅力を失います。物語内では「独自の視点のある人」として騒がれても、物語外では「それってフツーじゃない?」というツッコミによって齟齬(そご)が生じてしまうから。


質問:
「私には素晴らしい夫がいますが、ときどき浮気したくなります。平穏が退屈なのか別の人とセックスをしたいだけなのか。私は悩んでいます。」


ライアンの回答:
「別の相手を持つのは楽しいでしょう。でも例えるならその人たちは吹雪です。いつ来るかわからず、いつまで続くかも結末もわかりません。今の生活を大切に。吹雪が過ぎるのを見守りなさい。愛する人に寄り添って」


 残念ながら、これでは回答になりません。相談者は「浮気願望の原因」を訊いているのに、ライアンは「異性は不確実性に満ちているから夫の元にいなさい」と、ちょっと勘違いしたアドバイスをしています。


 お手本はこちら。


【悩みのるつぼ】女優と結婚したい(回答編)ー岡田斗司夫

○相談者 16歳 男性

 十六歳の高校生男子です。毎日ダメな生活ばかりで嫌になってきました。

 まず、PCづけ。内容は主にアダルト動画です。最近ではその欲も薄れてきたのですが、習慣になってしまったのかダラダラとそれらのサイトに、1日中見入っています。そのあと、必ず後悔するのです。

 こんなことをやってて勉強もあまりできず、小学校の時から、からかわれて(バカにされて)きました。僕は周りの人からそうされるのが嫌です。だから頑張って力つけなきゃと思うのですが、色々と小理屈をつけて逃げてしまいます。それで、ここまで来てしまいました。
 どこまで落ちて行くんだろうと我ながら末恐ろしくなります。

 また、こんな情けない僕ですが大きな夢があります。笑われるかも知れませんが、ある女優と付き合いたい(結婚したい)ということです。
 変なことは考えてはいません。
(中略)
 でも、ぼくは全くあきらめていません。そこまでいわれてもあきらめない僕っておかしいのでしょうか? 

○回答者 岡田斗司夫

 あなたのやってることは「ダメ」じゃない。
 「気楽」です。
 アダルト動画も女優との結婚妄想も、実に金のかからない気楽なお遊びです。やめる必要もないし、ずっと続けてOK。こういう大人もいっぱいいますよ。
 各年齢ごとに10万人、10代〜70代までで合計六百万人ぐらいいるんじゃないですか?いまの気楽な生活こそ生涯で一番幸せな時期かもしれません。


 でも、あなたにはプライドがある。「こんな生活をしてちゃダメだ」「どこまで落ちて行くんだろうと我ながら末恐ろしく」と考えちゃう。せっかくの「気楽な生活」に自分でダメ出ししてる。
 だから不安で苦しい。クラス仲間もバカにする。アダルト動画に逃げても最近楽しくない。でも他にすることも思いつかない。
 そんな自分が許せず、自分をダメと決めつけるプライドだけは高い。


 あなたは業が深い。
 そういう人間に向いている職業がたった一つあります。
 作家です。


 作家になるための前提は三つ。
 妄想力、世間からバカにされていることへの恨み、それ以外のとりえのなさ。
 相談からすると、あなたは三条件を見事にクリアしています。自分のダメさがどれほど本物か、賭けてみる値打ちはあるでしょう。
「るつぼ」回答者の車谷長吉先生をごらんなさい。おそらく高校の頃はあなたとそっくり、いやそれ以上にダメ人間だったはず。40歳過ぎまでダメを貫き通し、ついに作家として立派な賞を取りました。


 怠け者で、性欲など欲望が強く、ひねくれて、なによりプライドだけは高い。まったく、あなたは私とそっくりです(笑)
 私たちのようなダメ人間が、作家などクリエイターを目指す方法はただ一つ。毎日、作品を書くこと。その女優としたいことを書きなさい。豊富な今までの知識を総動員して書くのです。
 いままでのアダルト動画漬けの毎日をムダにしないため、あれは取材だったんだ、と割り切りましょう。周囲のバカにする目つきも、私たちにモチベーションを与えるための逆境です。
 これまでのダメ人生と、高すぎるプライド。この二つを自分の資産にするのです。


「グッドアドバイス」と言うからには、このレベルの回答力が必要なのではないでしょうか。
 や、正直、これはスゴすぎますが、観客の想像を越えるレベルの回答が必要なはずです。だからこそ、相談しているのですから。


 この路線(傲慢な男の鼻がポキッと折れる→更生(笑))の映画はすごく好きなのですが、どうしても物語内・外の整合性で引っかかってしまうんですよね。
 回答力が足りないなら、物語と絡めた回答をすればいいんでしょうけど(ラストシーンです)、悲しいかなスベっているように思えます。
「オレ様の文章」を書いていたチャーリーが、女性誌大人買いしたり、口ひげを脱毛して相談者に寄り添おうと努力しているシーンがあるだけに、惜しいなぁと思います。