『チェンジリング』

チェンジリング』★5(監督:クリント・イースト・ウッド)



 犯罪者がもたらす実害は肉体的な傷だけではない。
連続殺人者(ジェイソン・バトラー・ハーナー)の一方的な暴力によって拉致された子ど
もは、犯人の隙をついて辛くも逃げ延びたのだが、その幸福は闇をも一緒に連れてきた。
ミスティック・リバー』においてもイーストウッドは同じテーマを描いていたが、少年
が背負った闇とは、自己保身のために他者(友人)を救わなかったことに対しての罪の意
識である。
「あのとき警察に通報さえしていたら、被害を未然に防げたのではないか」
「少なくとも犠牲者を最小限に出来たのではないか」
運良く逃げ出せた少年にだけに与えられた選択可能性(警察に通報する)を意識的にスル
ーしたことで、10歳足らずの少年は罪悪感に苛む。(そしてそれは彼の一生に大きな傷
を刻む>『ミスティック・リバー』)。
人は台風のように突然やって来た一方的な暴力を回避しただけにも関わらず、苦しまなけ
ればならないのだろうか。。
わずか10歳そこそこの子どもですら…、という難問に観客は絶句する。