小説にも読み方がある→『小説の読み方』

●偶然見つけた『小説の読み方』(平野啓一郎PHP新書)という書名にやられてしまっ
た。
だって「現役作家」の「講義」を取らないわけにはいかないもんね。
そもそも小説の読み方なんて教わったことも考えたこともないから(←というより最初か
らお手上げだったわけですよ。)、これは、と思ったわけです。
批評家のような眼を養えるのではないか、と(笑)。


●本書で提案されている「小説を「四つの質問」から考えてみる」「小説がもっている時
間の<矢印>」は小説分析ツールとして役立ちそう。
実際、この本は二部構成になっており、1部で小説の読み方の基礎講座(ツールの伝授)、
2部では平野氏によって授けられたその道具でもって現役作家(綿矢りさ、ポール・オー
スター、高橋源一郎、美嘉など)の小説を読み解くという実地体験できるのがグッド。
これでマスターすることはもちろんできないが、どのように使うかその気分は味わうこと
ができる。
あとは実践あるのみ、と。


●小説の読み方という技術面もさることながら、分析対象として扱われている『恋空』の
擁護論は面白かった。
文体がしょぼいとか、語彙が少ないだとか、人称がコロコロ変わるとか、短期間に大きな
イベントが起こりすぎるとかいろいろ批判されてて、それは確かにそうだよな、と思って
いたものには、新鮮な指摘だった。
平野さんはご自身のブログで『恋空』についてこう語っている。
http://d.hatena.ne.jp/keiichirohirano/20090314/1237015289

 今回、『恋空』のような作品が取り上げられているのを意外に感じる人もいると思いますが、
『恋空』は、そういったメディアと言葉との問題を考える上で、とても興味深い小説です。
そして、社会には、ああいう文体だからこそ成功したコミュニケーション空間がある、という
のは、誰にも否定できない事実です。 
 僕は文学が、そういうリアリティを見失うようになったら、もう終わりだと思っています。
 その上で、個々の作品の好き嫌いは、当然あると思いますけど。


小説の読み方~感想が語れる着眼点~ (PHP新書)

小説の読み方~感想が語れる着眼点~ (PHP新書)