『イエスマン』

イエスマン』 "YES”は人生のパスワード(原題:Yes Man)★3



 ジム・キャリー久々のコメディーは佳作。
 友人や職場の上司、路上でチラシを配っている兄ちゃんらが発する提案(「・・・に行
かない?」など)に、脊髄反射的に「NO!」と言って他者との交流を拒絶するNO原理主
義者のカール・アレン(ジム・キャリー)が本作の主役。
 他人とのかかわり合いを徹底的に排除して、自らの世界の中で生きることにそれなりに
満足しているカールは、だから、TSUTAYAのようなビデオショップにいるとき、親友か
らかかって来た飲み会の誘いもへ理屈(「家にいるから無理」など)をこねて強引に断っ
てしまう。
だが、何度誘ってもすべて断ってくるカールに、やがて親友は業を煮やし「じゃあ、勝手
に孤独のうちに死ねよ」と厳しい言葉をカールを突き放す。ひきこもり性のカールもさす
がにこれには堪えられず、路上でもらったパンフレット(「イエス!は新しいNOだ!人生
にイエスということを今日から学びはじめよう!」と書かれてる)を取り出し、自己啓発
セミナーに出席することにする。
 そこでは教祖のテレンス・バンドリー(テレンス・スタンプ)が「Yes」と答えること
ががどれだけ素晴らしいかを力説し、満場の熱狂的な賛同を得ている。が、その光景をカ
ールはしらっ〜とした冷笑的な顔をして見ている。その姿を認めた教祖は、カールのとこ
ろへダダダダダッとすごい勢いで駆け寄り、カールに質問攻めにする。だがカールは教祖
の質問につい「NO〜」と答えてしまう。教祖はだからあんたはダメなんだよと非難し、
「Yes」マンで埋め尽くされている会場からは「Noマン!Noマン!」と大声でヤジられる。
ここらへんが狂信的でちょっと怖い。
 セミナーのあと、カールはいまだに「Yes」で人生が変わることに懐疑的ながらもホー
ムレスから「ちょっとそこまで乗せてってくれよ」という依頼に「Yes」といってみる。
すると、その善行が身を結んだのか、いろいろあって美女(ゾーイ・デェシャネル)にキ
スしてもらえるという幸運イベントが起こる。
 これに味をしめカールはなんにでもYESという「イエスマン」になる。
ここから物語が転がりだす。
ただ、善行を積む→美女によるキスというくだりはあまりにご都合主義的でリアリティが
ない。だけど、これがなきゃドラマが始まらないし、そもそもコメディなのだから、不問
に付す。


 本作では皮肉が痛烈だ。
 すべての依頼やお願いごとに「YES」ということを義務づけられている「イエスマン
セミナーの信奉者)たちに、「じゃ、あなた、いま死んでくださいよ」といった悪意溢
れる依頼をする者が現れたらどうするのだろう、という観客の頭をよぎる疑問に、「たぶ
ん彼らは従うんじゃないかね」という制作者側の主張(←勝手に推測)が小気味よい。
そんな極端な思想があっていいわけないじゃん、と自己啓発セミナーを皮肉っている。
すべてに「Yes」っていってたら、オレオレ詐欺などのいい的だし。
 ただ、皮肉ることだけが映画のメッセージではない。
なんでも頭ごなしにすべてを断るんじゃなくて、ときには「Yes」といって他者を受け入
れることで人生ってのは豊かになるんだと思うよ、というのがそれだと思う。
このメッセージは分からなくもないけど、それでもやっぱり説得材料(カール=ひきこも
り→狂信的なイエスマン→普通の人)がちょっと極端だと思うのは、こちらが無宗教の日
本人だからだろうか。