『ウォッチメン』

ウォッチメン』★5(原題:WATCHMEN、監督:ザック・スナイダー



ザック・スナイダーの『300』にはあまり感心しなかったが、『ウォッチメン』は素
晴らしかった。
舞台は1985年のアメリカ。
女子供を強姦し虐殺していたヒーロー(って形容矛盾だけど)ザ・コメディアンは、突然
自宅に現れた押し入ってきた覆面男にボコボコに殴られ高層ビルから落とされるという超
バイオレンスなアクションシーンから始まる。
緩急をつけた格闘シーンは『Vフォー・ヴェンデッタ』のラストの悪党滅尽シーンを思わ
せる。
次のカットでボブ・ディランの『時代は変わる』が流れ出し、集合写真のようなもので時
代背景(ケネディーが暗殺され、ニクソンが辞任せず3期目を続けているなど)を手際よ
く説明していく。

●本編は2時間40分と長尺だが、よく整理されている。
各ヒーローの痛ましいバックグランドが語られ、時空移動ができるDr.マンハッタンのよ
うな神的存在者ですら感情があり俗っぽい葛藤がある人間である(側面がしっかり描かれ
る)となっているところがよい。

●政治的話で言えば、一触即発状態にある米ソ冷戦の核戦争をどうやったら防げるのかに
対する原作者アラン・ムーアの解答(オチ)が凄い。
人間にはどうしても憎むべき敵が必要なようだ。
そして、そのとき平和が訪れる、というのはムーアの人間観が「人間の本性は獰猛である」
という認識にあるのだろう。
獰猛(つまり人間の暗黒面)の象徴的な存在がコメディアンである。
彼はこの世の中のできごとは全部ジョークだ(ひどい事ばかりだから)、といって笑い飛
ばしている。
ニヒリズムである。
だから、何をしたって構わないだろ、どうなっても構わないだろ、と思ってるし、蛮行を
している(わりに、ベトナムで妊娠させてしまった女性が「責任とってよ」と追いつめる
とタジタジになったりする)。
ダークナイト』のジョーカーのような存在なわけだ。
が、終盤、生前のコメディアンのカットが挿入される。
そこで全人類から憎まれるような彼の身に起こった内的変化には驚倒した(忌避されるべ
きだと大勢が思うだろうと推測する根拠は、ニクソン政権に加担して超有名人物の殺害な
どをしてるから)
ここにムーアのヒューマニズムを見た。


補記
重版予約していた原作がやっと楽天ブックスより届いたので読む。
で、気付いたことをいくつか。

・映画とマンガのセリフが酷似。
・カメラアングルも。
・原作に忠実に作ったと述べるスナイダー監督の主張に偽りはないようだ。
・但し、暴力シーン・強姦シーンの過激さは原作<映画版に軍配が上がる。
・ざっくり見積もって5倍以上か。
・劇場では両手で顔を覆ったり背けたりして、引いている女性も多かった。
・ので、観に行くときは要注意を。