『イキガミ』

イキガミ」★4(監督:瀧本智行



●国家繁栄維持法という法律が個人の自由を侵す社会。
よりよく生きるために、死の恐怖と隣り合わせでいることを国家が強要し、小学校入学と
同時にすべての子どもは注射され、18歳から24歳までの間に1000人に1人が死ぬ
ことになる。
国家は国民はこの恐怖とともに生きろという。
その意図は「汝、死を覚悟せよ」であって、さすれば充実した人生を生きられるだろう、
というもの。もちろん、そこでは「もっと生きたい」と個人の常識的な願いはすべて排斥される。


●ドラマとしては3つのプロット(金井勇太佐野和真山田孝之)のどれもが泣かせる。
とりわけ金井&塚本高史編が秀逸(キャスティングも妙)。
二人で路上ライブしながら貧乏暮らしをていたところをスカウトされる。だが、それはメインボーカルの金井だけだった。あとに残された塚本は土木作業をして生計を立てている姿が切ない。
金井は順調に人気が獲得し始めTVに出演が決まるも、出演前日にイキガミが届いたことによって茫然自失状態になる。
死ぬ前に超高級料理を食べてみるが、塚本と路上で一緒に食べたカップラーメンのほうが
全然うまい。
金井は死ぬ前にTV局に向かうことを決意する。が、その前に塚本の仕事場に行き、TVを
見てくれよと頼む。塚本の返事はつれないが、「オレ一生懸命歌うから」といってその場
を去る。
観客は金井がTVで何を歌うかが容易に想像がつく。
だが、やはり、金井の人生最後の独唱シーンで泣かなわけにはいかない。


イキガミ配達人に松田翔太。上司に笹野高史
シンガーの金井はにイキガミを受け取りTV番組の中で塚本との共作「みちしるべ」を熱唱した。それが巷でこれが話題になり問い合わせが殺到。
松田は金井がもっと早くこの歌で勝負していれば人気がでたのではないか笹野に意見を述
べる。が、笹野は「はたしてそうでしょうか」とそれに反論する。


「はたしてそうでしょうか。
おそらく彼は最後に歌ったあの瞬間、生まれて初めて全身全霊で生きようとした。
この歌を輝かせたのは、きみが届けたイキガミです」


ここに逆説がある。
国家によって個人の選択の自由を侵されながらも、イキガミを受った瞬間からたしかに彼らの人生が輝き始めたということに。


●果たして国家による個人の意志への介入は許されるべきなのか。
その答えは明示されない(が、介入すべきではないという意志を持ったものが反発しようとする予兆は示される)。
この世界では主客が転倒している。
近代国家とは個人の安全を保証するために存在するものではなかったのか。
それがいまや個人の自由を脅かしす存在となってしまっている。
もし、個人の自由を略奪すべき存在になれば、そんなものはぶっ壊してしまったほうがいいのではないか(=無政府主義)、などいろいろ考えさせられる秀作。


イキガミ [DVD]

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