『スラムドッグ$ミリオネア』

『スラムドッグ$ミリオネア』★4(監督:ダニー・ボイル



・宗教的怨恨によって暴徒により母が殺され孤児となったジャマールと兄サリーム。
彼らは身に迫る危険から逃げ出すために駆け足でその場を去るのだが、その途中でラティ
ーカという同じく母を失った少女と出会い、彼女も一緒に連れて行く。
 親を失った3人は『WALL-E』に出て来たゴミ溜め場のような場所でガラクタの山から
使えそうなものを拾い、それを売って(直接的には描かれないが、たぶんそう)生計を立
てている。
そこに慈善家風の二人組の男がやってきて、三人を引き取っていく。
着いた先は何十人もの子どもが集まる孤児院のようなところで、ここで三人は教育を施さ
れる。
が、慈善家の内実は、子どもたちが観光客から同情を買いやすいようにあえて彼らを身体
障害者にし、子ども達が恵んでもらったお金を巻き上げる悪徳資本家だった。
その事実を知ったジャマールらは逃げ出すが、ラティーカだけが逃げ遅れてしまう。
ここから、ジャマールのラティーカ探しが始まる…。


・物語はミリオネアの司会者が問題を出し、ジャマールがなぜ答えを知っているのかを回
想で説明するかたちで進んでいく。
そこでジャマールの半生を主軸に兄やラティーカの人生、そしてインドの急激な経済成長
の様子がまとめて語られている。
インドといえば「裸足」「カレー」「民族衣装」のイメージが強いが、ここ十数年の間に
そのような認識はとっくに時代遅れになってるみたい。
 スピルバーグのドリームワークスも、いまやインドの大映画会社・リライアンス社が多
額の資本を提供しているようだし。それにインドはBRICs(経済発展のすごい国の総称)
の一員だ。
子どもたちがクリケットなどして遊んでいたときは、まだ安そうな板で継ぎ接ぎしたほっ
たて小屋があたりを埋め尽くしていたのに、十数年後には超高層ビルが立ち並ぶまでに経
済成長したボンベイ(今はムンバイ)の姿にはちょっと驚嘆させられる。


・ミリオネアの司会者のイヤミさが、観客を一気に引き込むトリガーとなっている。
インドのみのもんたがジャマールに、いまどんな仕事をしているのと訊ねる。
ジャマールは素直に「お茶汲み係です」と答える。
司会者は「みなさん、聞きましたか。ジャマール君はお茶汲み係をしてるそうですよ」と
ジャマールの社会的立場を嘲笑のネタにし、会場の笑いをとる。
暗に「学のないおまえなんぞが正解できるわけないだろ」という底意地の悪さもここでひ
しひしと伝わってくる。
鑑賞していた場内では自分だけでなく、みんながイライラしていた(場内がイラついてい
る雰囲気というのは案外わかるものなのだと、このとき知った)。
上手い演出・役者である。