『デトロイト・メタル・シティ』

デトロイト・メタル・シティ』★2(監督:李闘士男



・目立つ瑕疵が二つある。
ひとつは松雪泰子のキャラクターが痛々しいこと。
人を自分の思いのままに動かせる権力の気持ちよさによって「キャハハハハハ」と松雪さ
んが高笑いするんだけど、あれはマンガだから成立するものであって、現実に人間がやる
のはありえない。
松雪さんのキャラクター自体が完全にすべってる。だから、彼女の登場シーンでいちいち
シラけてしまい、映画そのものの魅力を損なわしている。
ただこれは松雪さん自身にではなく、原作を映画化させたことに原因があると思う。
いくら演技派女優でもあれは無理だっていうことが証明されちゃった。


・もうひとつ。
とにかく歌詞やギャグが幼稚で低レベル。ひねりがまるでないから、ちょいちょいすべる。
D.M.C(デトロイト・メタル・シティ)に敵対心を持っているバンドが喧嘩をふっかけて
きて、ステージ上で『8マイル』のような歌対決(じゃなくて、ダジャレ対決)をするの
だけど、そこで「布団がふっとんだ〜」「ダジャレをいっとるのはだれじゃー」といった
超古典的なギャグでもって応戦するクラウザー2世(松山ケンイチ)は完全に相手に負け
ている。これは、なぜ負けているのか言葉では上手く説明できないんだけれど、絶対負け
てだろってのがわかる。のに、物語ではクラウザー2世の勝利に終わる。
ここも松雪のキャラクターのマンガ的演出によるイタさ同様、観客を物語から現実に引き
戻し、顔を硬直させることでしか機能していない。
ありゃ、ないよ。


・ただこの映画は、加藤ローサがとにかくかわらしく撮れていることで救われる。
大学卒業後、学生時代からずっと片思いをしていた加藤にCDショップで邂逅し、その席
で彼女からお茶に誘われる。松山は歓喜しつつもバイトがあるからと嘘をついて(ほんと
はD.M.Cとしての仕事がある)彼女をカフェで待たせつつ、ときどき加藤の前に顔をだし
てやりくりする。加藤は松山が席を外しているその空白の時間を雑誌を読んだり、ipod
音楽を聴いたりしてとても楽しそうに過ごす。その表情にまったく「待ってやってる」感
がない。あだち充の『H2』の中で、古賀春華が「待っている時間も、デートの内でしょ」
という素晴らしい金言をおっしゃっていたが、加藤はまさにそれを体現している。
また彼女は、仕事で得たコネを使って松山に業界で売れっ子のプロデューサーを紹介して
あげたりする。松山はプロデューサーの前で自作のポップミュージックを披露するが(そ
れほど悪くはないと思うんだけど)観客とプロデューサーはドン引き。しかし加藤だけは
微笑を浮かべながらリズムに合わせてノっている。この辺りが男心ををガシっと掴む。


・テーマは「やりたいこと」(ポップミュージック)には才能がないが、「やりたくない
こと」(メヴィメタルミュージック)には才能がある、という矛盾をどう止揚(受け入れ
るか)するかということ。
何度も繰り返し語られているテーマだし新しい知見はないけど、ここまではいい。
だが、最後で伏線(加藤ローサとの恋愛)を回収しないで幕が閉じてしまうのが不満。
いろいろ問題があるけど、そこさえしっかり演出してくれたら、他のキズもたぶん許され
たと思うんだけど。


デトロイト・メタル・シティ スタンダード・エディション [DVD]

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