『1Q84』所感

『1Q84』を読了した。

清流のような淀みのない文章は圧倒的に美しく、多面的な視点から紡がれる深遠な物語は
読む手の手を休めさせてはくれない。
あぁ、おもしろかった。
で、読み終えてからいくつか批評を検索したんだけど、内田先生の「父」という文脈での
解釈が面白い↓。
http://blog.tatsuru.com/2009/06/06_1907.php


「父」とは生物学的な父のことではなくて、「世界の意味の担保者」のこと指す。
たとえば「神」とか「王」とか「予言者」とか「法」のこと。
これは村上春樹エルサレム賞受賞のときに語った「システム」という言葉に託した意味
を想起すれば理解できる。
われわれは当の「父」によって、自分がいかに傷つけられたかを説明する。
しかし、父によって傷つけられたという言葉づかいをしている限り、「被制者」というポ
ジションから逃れることができない。
『1Q84』では「邪悪で強力な父」という表象(=象徴)を無力化し、前述の言葉遣い
を主人公がやめることで終わる。
そこにはこの世界がどのような成り立ちを持つ世界なのか、どのような原理のもとに動い
ているのかまったく理解できないけれど、それでも生きていくのだという自立の強い決意
のようなものが感じられる。
ここが大変感動的である。
そして、その決意を担保しているのは、幼きころの記憶である。
それが本作を100%の恋愛小説として名高い『ノルウェーの森』の系譜に続く純愛ラブス
トーリーである、という印象を読者に抱かせるのだと思う。


ただ、個人的に物語はまだ完結していないように感じる。
以下、その根拠。
・いくつかの伏線が未回収だということ。
・上下巻ではなくBOOK1・2と表記されているいこと。
 「了」ではなく、「BOO2終り」で終わること。
・村上さんご自身が「今までで最も長い作品になる」と(どこかで)語られていたこと
…いや、ま、ハルキストとしての願望がこれらを根拠にそう信じさせているにすぎやし
ませんが…。


1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2