勝間和代「現象」を分析→『勝間和代現象を読み解く』

日垣隆さんのひさびさの新著『勝間和代現象を読み解く』を読む。

勝間和代現象を読み解く

勝間和代現象を読み解く


100ページ弱の小著なので30分ほどで読み終える。
内容的にはいまひとつ。
「雇われない生き方」(=フリーランサーのこと。人から雇われない。人を雇わない)の
推奨、複数の収入源の確保など、いままで上梓されてきた本で提言されていたことが散見
される。
また、勝間和代氏がなぜここまで売れているのか、の分析についても紙幣はそれほど割か
れていない(割けなかった、ということではないと思う。そこまで深く分析するつもりが
なかったのが内実ではないだろうか)。
表紙には「勝間ブームの裏側を徹底検証する」と書かれているが、これは明らかに過剰な
表現。若者の間で(組織ではどれだけ仕事をしても給料が変わらないため)「雇われない
生き方」の需要が高まっている→苦労してでもいい仕事をしたい+効率的に働きたい→ノ
ウハウを教えてくれ、という人たちが勝間本を読んでいるのではないか、と分析している。
この分析にはかなり不満。
日垣さんならもっと射程の広く鋭い分析ができると思うから。
ただ対象(勝間和代氏)を分析する際の距離の置き方はやはり抜群にうまい。
ともすると、効率至上主義者だからダメなんだよとか、だから勝間さんのは勉強になって
いんだよ、と二元論的に対象を裁いてしまうところを、ここは素晴らしい、あそこは下品
だと思う、と各項目ごとに評価を下し、本人その人を全肯定/全否定しないところに批評
技術のキホンを感じた。
勉強になります。


批判されていたうちでは「「××力が大事」は恥ずかしすぎて口にはできない」という主
張に共感した。

繰り返しになりますが、勝間さんは①英語力、②金融知識、③体力の3つが大事だと
言っている。私はどうも、羞恥心はどうなのか、というところが気になってしまうので
す。
 勝間さんは移動手段として自転車を活用していますし、ジムでパーソナルトレーナー
雇って体力をつけている。マッキンゼーに勤めていたくらいですから、英語力も鍛え抜か
れている。職業は公認会計士であり、金融アナリストでもあり経済評論家でもある。
 そういう人が「これからは英語力、金融知識、体力が大事だ」と言ってしまうのはどう
なのでしょう。
 私のような書き手が「これからは読書量、取材力、文章力が三大能力だ」と言ったとす
れば、これはかなり恥ずかしいと思います。(『勝間和代現象を読み解く』,p67-68)


日垣さんの魅力のひとつには、博覧強記の超インテリにも関わらず、こうした常識人とし
ての倫理感覚が失われていない点にある、と思う。
次作に期待したい。
同日刊行された『<北朝鮮>はなぜ嫌われるのか?』も読んでみようかな。