心のストレッチ→『折れそうな心の鍛え方』

これ以上ないくらい平易な言葉で、人の苦悩にそっと寄り添ったところから、深みのある実用的
な助言を与えてくれる処方箋ライクな本。
どれだけ実用性があるかは、下に引用したものを読んでいただくとして、行間から著者の温かい
眼差し(というと、孫を見守るおじいちゃんの視線みたいだけど)がじわじわと滲みだしている。
助言も大変参考にはなるが、この「人としての温かさ」がなによりもぐっときます。

折れそうな心の鍛え方 (幻冬舎新書)

折れそうな心の鍛え方 (幻冬舎新書)

18-人は自分で超えられる悩みや落ち込みしか抱えない
 不思議なもので、悲しみや苦しみにもキャパシティがあります。
人は、自分にふさわしい悩みや落ち込みしか抱えないのです。
 例えばお金の失敗といっても、三億円なくすことができる人は限られています。
(中略)
 自分にとっての「どん底」まで沈んでしまえば、プールの底をぽんと蹴って浮上するがごと
く、あとは立ち直っていくだけです。株と同じようで底値までいけば、上がるのが自然な姿だ
と考えることにしましょう。
(中略)
 底が見えないプールを、ずぶずぶ沈んでいくのは「根拠なき不安」と同様、おそろしいもの
です。
この落ち込みは際限がないと思えば、叫びたくても声が出なほどの恐怖となります。
 しかし「絶対に底はある。しかもそれは自分の耐えうる<底>なのだ」と思っていれば、い
さぎよく沈んでいくことができます。
(中略)
 人間には生まれつきの能力による個人差がありますが、極限まで落ち込んだり低迷したとき
の「伸び率の差」は、どん底でいかに必死に鍛えたかに、かかっているのではないでしょうか。
「夜明けが一番暗い」
「明けない夜はない」
 ありふれたフレーズではありますが、確かな真実だと思います。(p56-57)

42-失業もウツも「最悪の事態」を経験できる貴重な機会
(中略)
 しかし、本当の失意の底に落ちて、無限と思える時間があれば、あらゆることが深く考えら
れるはずです。
 もしあなたが今、喪失感や落ち込みの真っ只中にいたら、それは「最悪」を経験するという
貴重なときであり、人生のなかでまとめられて与えられた「考えるための時間」かもしれません。
 そこから何を生み出すか、生み出さないかは、「最悪の時期」の過ごし方で決まるような気
もします。(P127)

50-落ち込んだら、まず出口をイメージするのが回復の第一歩
 つまり、悩みの「たかがさ加減」を知るのが、落ち込みの出口ということ。
 特別でもなく、世界唯一の悲劇でもなく、口の悪い人に言わせたらギャグになってしまうよ
うな、ごくありふれた、くだらないことだと笑い飛ばせるようになること。
(中略)
 自分の悩みを笑い飛ばせるようになれたら、あるいは「自分に課せられた人生の宿題だった」
と思えるようになれたら、まさにそこが困難を抜け出す着地点なのです。(P145-147)


医者に相談するほどでもなく、かといって日々結構しんどいなぁとおもいつつ生活を送っている
人(マジョリティだよね)にとって、自らの体験知(ウツ〜回復へ)をもとに語る日垣さんのよ
うな方がいるというのは、ほんと救いなんじゃないかと思います。
個人的な話になりますが、こうしてなんとか生活できているのは、この方のお陰といっても過言
じゃないところがあります。
あんまりそういうことをゆーと、宗教みたいになるんでやめときますが。


弱くていい
しなやかな心に



これは本の帯に書かれている言葉ですが、このわずか2行の言葉を目にしたとき、あっちこっち
に揺れるどうしようもない弱い心をもっているのは自分ひとりだけではなかったのだと知り、悟
り、勇気づけられてぶわっと涙腺がゆるんでしまいました。
本書の通底奏音をぎゅっと凝縮した名文句だと思います。