『40歳のバージンロード』

『40歳のバージンロード』(原題:『I Love You,Man』) ★4 監督: ジョン・ハンバーグ 出演: ポール・ラッド, ジェイソン・シーゲル



友達が一人もいない男が、結婚式のためにベストマン候補を探し、見つけ、親密に
なり、ケンカし、仲直りする話。
ざっくりいうと(なのでマリッジブルーの話ではない。徹頭徹尾、男と男の話)。


友達がまったくいない男という人物設定はダニエル・オートゥイユの『ぼくのたい
せつな友達』がある。個人的な好みをいうなら『40歳の―』のほうが好き(蛇
足。邦題は最低。『I Love You,Man』のほうがずっとずっと適切)。
こちらはとにかく笑えるから。


男同士の会話はセクシュアルなものが好まれる。
やっと見つけたベストマン候補のシドニージェイソン・シーゲル)の自宅へ遊び
に行ったピーター(ポール・ラッド)は、彼に彼女との性生活はどうだと訊ねられ
る。
ピーターは「最高だよ」を答える。
しかし、すかさずシドニーは「おい、ウソいうなよ。声がうわずってるぞ」と指摘
され見破られ、そこからディープな会話が展開していく。
ピーターのようにその手の話しを恥ずかしがって咄嗟にウソつく人もいる。
彼のような人は、自分は満ち足りているとナイーブにも思っていたりする、という
のではなく、満ち足りない状態で悶々としていて、解決策を検討できないでいると
いうケースが多いのだと思う。考えちゃいけない領域、とでも思っているような(
シドニーは真逆)。
だから、このくだりは結構おもしろかった。
しかし、人のウソを見破る洞察力を備えたシドニーも完全ではない。
ピーターは男友達がひとりもいなくて引け目を感じていて、人脈(母や弟)やネッ
トを利用して必死になって探しまわっているにも関わらずなかなか友達が作れない
から、彼に感情移入している観客は、男友達がたくさんいるシーゲルがなにか完全
無欠の男のように見える錯覚を起こしてしまう。
が、シドニーにも当然欠点がある、というのが後半で明らかになってくる。
すると、映画はちがう様相を呈するようになる。
ここから互いに瑕疵を持ったものたちが友情関係を結び、どう成長していくのかと
いう話にシフトするのだ(っていうか、人が欠点をもってるのは当然だよね。それ
までが、うまく誘導されていた、というほうが正しい)。


ザ・エージェント』(トム・クルーズ主演)のなかで、「君が僕を完全にする」
というセリフがあったが、まさにそれに近いことが行われている。
不完全さの自覚のうえにしか成長はない。
「オレはパーフェクトな男だ」と公言して止まないものに向上心など生まれようは
ずがない。
そして、成長にはやはり親密な他者が必要不可欠だ。
他者を意識しないでいられるならば、僕らは成長する必要がない。
彼/彼女の存在を意識し、未熟な子どもである自分に相手を満たせぬ焦慮感を感じ、
だからこそ奮闘するようになる。


シドニーと頻繁に遊びようになってから、ピーターはシドニーからラッシュ(バン
ド)のライブに誘われる。だが、日曜の夜は毎週彼女と一緒にHBO(アメリカのケ
ーブルテレビ)を見ることが習慣になっている。しかし昔からラッシュのファンで
あるピーターはどうしても行きたく、彼女を連れて行くことにする。
会場は熱狂的な盛り上がりをしており、男二人でエアギターを弾き音楽の世界に酔
いしれる。
おざなりにされている彼女は、二人の姿を横からしかめっ面で見ている。
後日、彼女はピーターに「あなたを彼にとられたような気がしたの」と当日の不満
をもらす。
たしか、橋本治が「友情とはセックスのない恋愛である」といっていたが、ここを
見ていてまさにという感じがした。


開始5分も経たないうちから女同士のセックスネタが展開(←婚約報告を友達にす
るシーン。あまりに過激なんで、そんな話しをするのかとほんとにびっくりした)
される下品なコメディ映画だという印象を免れないかもしれないが、この人たち
(ジャバ・アパトー組員。というものがある、としておく)が撮る映画はほんとに
「教育的」なものだと思う。(下ネタはド派手なアクションシーンのようなフック
のようなものだろう)。
人物説明が雑で「この人、だれ?」という疑問を抱かせるなど、細部のつくりが粗
いところもあるけれど、総じてすばらしい作品だと思う。