『アイアムアヒーロー』

ご無沙汰してます。
ひさびさの更新ですが、今回は最近読んだマンガのレビューです。

アイアムアヒーロー 1 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 1 (ビッグコミックス)

端的にいって、傑作である。
わずか2巻、それも連載中にして『アイアムアヒーロー』は傑作の名に値するもの
を描いてる。
っていうのもね、この漫画は読み手の「無意識の欲望を意識上に引っ張りあげるこ
と」に成功しているから。
その欲望とは読み手である「私の邪悪さ」である。

敷衍して説明するね。
主人公の英雄(!)は一度プロの漫画家として世に出たものの、連載が打ち切りに
なって、アシスタントに逆戻りしてしまった30歳の青年。
彼は彼女が自分の漫画を理解してくれないだとか、彼女に元彼の漫画を絶賛して自
分に読んで勉強しろ、だとかいわれてストレスがたまっている兄ちゃん。
で、平凡な毎日を過ごしているんだけど、ある日、とつぜん、理由なんかわからな
いままに、近所の大家さんや、職場の同僚や、道端を行き交う人たちがゾンビ化し
ていく。
そしてゾンビ化した人々(?)は人間やってるヤツにガブっと齧りつき、そいつは
すぐにゾンビになって、別の人間にガブッとして…、というゾンビの生産がはじま
ちゃって、ゴキブリ並の繁殖力でどんどん増殖していく。
その齧りつきかたがすごくて、手足をバキバキに折ったり、クビを捥(も)いだり
する。
おえー、ってな感じですよ。
で、見渡す限りゾンビだらけになっちゃう。
人間<ゾンビになっちゃう。
こえぇ。
英雄は当然ゾンビにならないように、精一杯逃げるわけです(で、読者も一緒に逃
げます。つまり、読者=英雄なわけです)。
で、このゾンビが、また直視できないほどグロい。
まぁ、ゾンビなんだからキレイなわけないんだけど、一読したあと、じっくりみて
やろうとおもってあえて再読したんだけど、血管がぐわぁっとたっちゃってて、ど
うしても目を背けてしまうくらい不快なゾンビなんだよ。
頼むから、そんな気持ち悪いの出てこないでくれ、っていう。

でもね、そこで読むのをやめないでほしいんですよ。
(もう読んでる前提になってるけどw)ぜひ2巻まで読んでほしい。
なぜなら、直視することを拒絶させる猛烈にグロい描写にはちゃんとした意味が込
められているから。
その描写に隠された意図。
それは読み手である「私の邪悪さ」がもや〜っと浮かびあがる仕掛けになっている
んだ。
「ちょ、なにをとつぜん言い出すんだ?」と思われるかもしれない。
「な〜ぜ、そんな人喰いゾンビがでてきて、『オレは邪悪だった・・・orz』だな
んておのれを省みなきゃいけないのよ。」
「気でも触れたのか?」
が、それでもぼくは正気である、と断固主張したい。
ゾンビの登場によって暴かれること。
それはほんとうにグロかったのは、ほかでもない「この私だったのだ」というアク
ロバティックで逆説的な真実であり、それによる悟りの体験なのですよ。
「あぁ、オレはこれほど邪悪だったのか」という、痛みを伴う感覚。
略して痛覚。
この(英雄を通して体験する)痛覚体験こそが、わずか2冊にしてこの漫画を決定
的な傑作にしているとおもうのですよ。
そして、ぼくはそこまで読んで、戦慄し、泣いた。
いや、マジですよ、これ。
ふざけてないです。
でも、なにを言っているのか、とやはり思われるかもしれない。
言っている意味がわからない、と。
てか、そうだよね(笑)。
ぼくもそう思う。
しかしぼくはウソをついてはないよ。
でもこれ以上説明することは読書体験を妨害することになるからできない。
だからもしこのエントリに懐疑的ならば、ぜひ手にとってことの当否を確認してほ
しい。
そして、言葉を失う痛覚体験をしていただきたい。
みなさんの健闘を祈る。