お金をもっと刷ろうよ→『日本経済復活 一番かんたんな方法』


日本経済復活 一番かんたんな方法 (光文社新書 443)

日本経済復活 一番かんたんな方法 (光文社新書 443)


を読みました。
以下は、その簡単な感想とメモです。


1章で経済学者の飯田泰之さんがいまの日本がとるべき経済政策を提言してしている。


1.経済成長
2.安定化
3.再配分


1の経済成長ってのは、つまり実質GDPの上昇のこと。
GDPってのは、「辞書的には、その年に一国の国土で生み出された付加価値の総額」って
意味。
でも、これじゃまったく意味がわかんないのでもうすこし翻訳すると、「付加価値」って
のは、「付け加えられた」価値のことで、たとえばパン屋が50万円分の小麦粉や塩など
の原材料を購入して、パンを作って売って80万円になったとする。このとき、30万円
「付加価値」が生まれてる。この日本中の合計が名目「GDP」。
で、この付加価値の合計である名目GDPのある年を基準として、物価変化(デフレやイン
フレが起こると、物価は変化するから)の影響を除いたGDPの額が「実質GDP」。
これを上げていこうよ、という提言なんだよね。
でも、なぜ経済成長が必要なの?
その理由のひとつに、成長しないと失業率が増加していっちゃうからってのがある。
生産効率って自然にしてても年2%は上昇していくらしい(具体例はなし。グーグルのよ
うな企業がもたらす便利なサービスが登場し、どんどん仕事効率が上がっていくことを想
像すればいいのではないかと)。
すると効率が良くなった2%分の労働力が不要になる。
それって、イコール失業ってことだよね。
いまはデフレでお金の価値が高まっているから、企業だって要らないコスト(人件費)は
減らしたい。とすれば、リストラが生じるのは理の当然。
だとするとだよ、「ゼロ成長でいいんだ」とか「反経済成長で十分だ」とかいってる人い
るけど、この問題どうすんのよ?ん?失業したまんまでいろってこと?それってひどすぎ
ない?じゃ、この問題を解決するには、やっぱり経済成長していくしかないでしょうよ、
という話。


2の安定化というのは経済成長とインフレ率を高すぎず、低すぎずにコントロールする政
策のこと。
方法としては金利の引き下げや量的緩和*1などで対応するみたい。
なぜ安定化させる必要があるのかといえば、いまの日本には潜在的な力(詳しくは書かれ
ていないけど、おそらく労働力のことだと思う)と実際の経済が乖離している(つまり、
需要<供給という関係で、提供できる労働力が余ってるってこと。これはもはや日常的光
景だ)ので、これを最小化し(みんなに職場を提供すること)経済成長を目指す。
いま35超円程度の潜在的な力があるようなので、これを発揮してやれば、それだけでも
7%成長できる(みたい)。


3の再分配は富裕層から徴税して、困窮層を支援しようという政策。
これは運不運に対する保証みたいなもの。
いま稼いでいる人だって、いつかは失敗して困窮層に陥ってしまうかもしれない。
成功には運が大きく絡んでるとみるんだね。
だから、その不運にも失敗してしまった人を助けようということなんだ。
これがあれば、失敗したってセーフティーネット的に機能するから、起業などが増え、日
本の経済が活性化していく。
つまりパイが大きくなっていくから、富裕層もただのボランティアではなく、自らの保険
づくりをしたようなもの、という理屈。


2章以降、インフレと失業率の関係をまとめた「フィリップス曲線」の平易な解説、ハイ
パーインフレは起きない理由、1929年の世界恐慌が起きたのは「金本位制*2のせい、
などが語られてる。
世界恐慌って、「株価が下落したから」って学校ではならったけど、しっかりとした理由
(→金本位制のせい)があったんだと理屈で納得できるところが素晴らしい。
ふつうに考えて、原因もなく、いきなり株価が下落することなんてないわけだしね。
で、タイトルの「一番かんたんな方法」への解答は、「とにかく、インフレ率に注意しな
がら金をもっと刷ってきましょう」(で、貨幣の価値を減らして、インフレに)だった。


さいごにまとめると、経済成長やインフレ2%の目標設定(インタゲ)する必要性、それ
によってデフレ脱却するという理路を理解しようとするなら、『デフレと円高は何が「悪」
か』*3のほうが正直いってわかりやすいと思う。
本書のアドバンテージは、いま話題の三者による分かりやすくて面白い鼎談かと(難しい
タームを連呼するけど、欄外に丁寧な注釈がついているから安心して読める)。
GDPという分かりづらい概念の説明を、これほどすっきりとしたわかりやすい説明をして
くれる本は類書にはなかったと思う。

*1:マネーの供給で金利をコントロールする方法

*2:要するに、金の保有量に対して、お金の刷れる限界が決まる制度。

*3:

デフレと円高の何が「悪」か (光文社新書)

デフレと円高の何が「悪」か (光文社新書)