無理なく人を動かす方法→『戦略的思考の技術』


戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する (中公新書)

戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する (中公新書)


世の中には見えていないものがある、というのは常套句だけれども、これは
一片の真実を含んでいる。
というのも『戦略的思考の技術』を読むと、世の中で展開されている「戦
略」がありありと見えるようになってくるから。
つまり、戦略を「見える化」するのが本書の一つの効用だと言える。

1章  戦略
2章  先読みと均衡
3章  リスクと不確実性
4章  インセンティブ
5章  コミットメント
6章  ロック・イン
7章  シグナリング
8章  スクリーニングと逆選択
9章  モラル・ハザード
10章 値引き競争
11章 オークション


ちなみに戦略とは、「戦略的環境において、自分が自分の自由意思のもとに
とりうる行動を、その将来にわたる予定を含めて記述したもの」のこと。
なんだ、そのわかりにくい定義はww
ここで出てくる戦略的環境っていうのはね、自分だけじゃなく他人の利害や
思惑を含んだ市場のようなものだと思うんだ。


「M木に1000円で芝刈りを依頼したいけど、あいつは強欲野郎だから
な。2000円出さないとやらないだろうな。じゃ、1500円くらいから
値段交渉してみるか」


といった自分だけの利害だけじゃなく、相手の損得も織り込んだものね。
つまり戦略的環境ってのは、観念的なもの、頭のなかで作りだされた仮想的
な市場のことなんじゃないかと。
で、そこにおいて、自分の意思でこれをしようという行動を書いたものが戦
略だ、と。
やっぱ分かりづらいw


以上のように戦略に関してはよくわかんないんだけど、紹介されている戦略
たちはどれもこれも抜群におもしろい。


たとえば8章にスクリーニングという戦略。
これは「ふるい分ける」という意味なんだけど、ぼくたちはすでにスクリー
ニングにかけられているっていうんだ。 
たとえば?
たとえばね、ことさらに「わたし、今月の5日が誕生日なのよね」などと誕
生日をアピってくる人がいるよね(いないか。勘弁してね。想像力が乏しい
の)。
あれってただプレゼントが欲しいだけ、というインセンティブ(動機)から
かもしれないけど、その場にいる人たちが自分に興味があるかないかを、今
月誕生日なのよね発言によってふるい分けている、とも言えるわけだ。
だって、どの人が自分に興味があるかなんて、よくわからないじゃない。
だから「自分に興味がある人」が分かれば、その人にだけ向かってアピって
いけばいいんだから、これはなかなか合理的な「戦略」だと言える。
なんと狡猾な!っていうのは禁止ね(笑)。


ほかにも学校の受験なんかもそうだよね。
あまり勉強していない人はそこを受験しないようにするために、あえて問題
を難しくして「キミたちはやめておいた方がいいよ」というシグナルを発し
て、賢い人たちだけにアピるようにしていたりする。
あぁ、やだやだ。


もうひとつの戦略も紹介しておこう。
ロック・イン戦略。
これはねぇ、怖いよ(笑)。
ケータイ電話を思い出してもらえばいい。
あれって、どこかのキャリア(ドコモやauソフトバンク)と契約するこ
とで使えるようになるわけだよね。
ただ一度契約してしまうとだいたい2年縛りを食らうことになる。
途中で解約しようものなら、9995円とかバカ高い解約料をせしめられる。
なぜか?
ほかのキャリアに移ることを面倒くさくて損な行為に見せるためだよ。
だって、1万円も払ってべつのキャリアなんていくのバカらしいじゃない。
そりゃ、なかには移る人もいるだろうけど、1万円というコストを払ってま
でべつのキャリアへ移るのはそう多くはない(きっぱり)。
だから1万円という解約料は他へ移らせない足かせになっているのだ。
こわっ!
ロック・イン戦略とはまさにこのことで、人々の行動をを変えられなくして
しまう戦略のことなのだね。
ったく。


まとめると、戦略論はなかなかおもしろい。
無理やり相手を動かす力学に基づいていないところが好感がもてる。
むしろ、自らの意思で何かにコミットしていく自由意志ありきになってるし
ね(もちろん、心理学的な仕掛けによって、そう思い込まされている罠であ
る可能性もあるから注意は必要だけど)。
これこそ「人を動かす」ことの要諦だよね。
「マジメに勉強しろ」っていったって子どもは親の言うことなどきかない。
だから、インセンティブの構造を変えてあげる。
「大人になったら困るぞ」なんていったって効果がないんだから、「ムシキ
ングのカード買ってやるぞ」、とか言えば、彼は喜んで勉強するようになる
だろう(予言)。
もちろん、それは長くは続かないし、健全性についても考える必要がある。
けど、ようするに、人を動かすとはそういうことなのだ。
そして、それについて考えることが「戦略的思考」そのものなのだ。