世の中のルールを知る→『カイジ〜人生逆転ゲーム〜』
先日、誕生日プレゼントをくれた友人から映画版『カイジ』の感想を聞いたので、本日はそのネタを書きたいと思います。
予告編から怪しげな感じは際立っていますが(ここでひとつ予言しましょう。「ラストであなたは必ずや吹くでしょう!」)、感想を聞くのは大好きなので興味深く拝聴しました。
いわく、
「ぜんぜん面白くないんだけど、とくに心情をべらべら喋るのがバカみたいだった」
と切切と語っておりました。
なるほどね。
「わたしはこの危機をどうやって乗り越えたらいいのだろうか」
みたいに、真顔で口に出して喋るヤツね。
あれってほんとバカみたいですよね。
なんでもリアリズムで撮る必要はないとは思いますけど、映画で思考や心情を口に出してはいけないと思うんですよ。物語内の現実性が崩壊しちゃうから。
登場人物が考えていることや感じたことを吐露するのってTVドラマの演出ですよね(調べたら、ビンゴでした*1)。
話を聞いていて、興味深かったことがひとつありました。全体像の見せ方についてです。
『カイジ』は多額の借金を背負わされた青年が、借金返済のために怪しい船にのってギャンブルするという話です。
しかし彼はそうそうにギャンブルで負けてしまって、返済のためにしばらくタダ同然で労働させられるそうです。
物語は進み、後半になると強欲な資本家を登場してきて、後がない人(カンジ)を罠にハメて船に乗せ、タダ同然で働かせるという搾取の構造を作っていた、というシステムを暴露する作品のようです。
実は大物が小物を支配していた、という構造はよくありますよね。現代社会を揶揄・風刺しているのもしれない。
ぼくが関心したのは船のなかの搾取構造の暴露についてです。
僕ら個人って、社会のシステムを展望することが基本的にはできないじゃないですか?
目に見えるのは、身の回りの小さな社会であり、本や人やネットで知ったり聞いたする
情報が限界だから。
人や本から全体像を教えてもらうことはできますけど、それも限定的であってすべてを
知ることはできません。
しかし作者は、その原理的にすべてを知ることのできないぼくらの「無知」をついてき
ました。
でも、どうやって? 方法は簡単です。
ある人物にフォーカスしておいて、あるシステムのなかに彼を放り込むことで、徐々にシステムの仕組みをバラしていくのです。
換言すれば、カイジという人物がどんな人物であるか、それをさんざん描いておいて、ギャンブル船のなかに彼を放り込むことで、船のなかがどんな世界だったのかをカイジは知り、彼を経由して観客は実態を知るいう手法です。
カイジは乗り込んだ船の中の世界がどのようなシステムで動いているのか全く知りませんでした。
船のなかに投げ込まれてみてようやく、どのようなシステムで動いているのか徐々に知っていったのです。
これってまさに僕たちのことですよね。
この世に生まれ落ちたとき、僕らはこの世界の仕組みをまるで知りません。なのでよく間違えます。あっちこっちにぶつかって失敗を繰り返し、少しずつ学んでいきます。
世界の仕組みや成り立ちを理解するにはそうした体験を重ねていくしか方法はありませ
ん。それ以前には、成り立ちを理解することはできません。
カイジの感想を聞いていて思ったのは、僕たちが世界を知り、学ぶ過程を忠実に再現(追体験)するように『カイジ』という映画を作っているのだなということでした。
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