究極の2択→『わたしと仕事、どっちが大事?』
「わたしと仕事、どっちが大事?」はなぜ間違いか―弁護士が教える論理的な話し方の技術
- 作者: 谷原誠
- 出版社/メーカー: あさ出版
- 発売日: 2006/08/28
- メディア: 単行本
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ときどき耳にする究極の2択。
「わたしと仕事、どっちが大事?」
さて、こう訊かれたときなんと答えよう?
この種の質問を訊かれて閉口してしまうのは、どっちも大事だから。
でも、「どっちも」じゃ彼女は納得してくれない。
こまったな。
そもそも論をすれば、「わたし」(彼女)と「仕事」は比較が可能なもの
じゃない。
A社とB社の仕事、どっちが大事?
ならいい。
わたしとヒロコ、どっちが大事なの?
でもいい。
おなじカテゴリーだから。
でも、「仕事」と「わたし」はおなじカテゴリーには属していない。
これを一緒くたにして天秤にかけるのは、つまり極端な2択を迫っている
だけ。
そりゃ、どっちも大事だよ、としか言い様がない。
でも、これじゃあ回答になってない。
著者は、「比べるまでもないよ。キミのほうが絶対に大切だ」と空気を読
んで答えるといってますが、そんな小手先の回答じゃすぐに問題は再発しま
すよ。
比較可能なものじゃないことを「論理」は明らかにしてくれますけど、説
得にはあんまり向かないんですよね。
無垢の崩壊
もう一つご紹介。
相手がこちらの主張にイチャモンをつけてきたときなどに、「門前払い」
という手法で反論することがあります。
門前払いとは言動が矛盾していることを指摘し、その論を斥ける方法で
す。
その好例が『17歳の肖像』*1にありましたので、そこから引きます。
17歳の少女はある男に騙されて大切にしていた処女を捧げてしまったの
ですが、その男の秘密を友人(男と少女の共通友人)は知っていたのです。
少女は友人の男を責めます。
「なぜあなたはあの男に処女を捧げるのを黙って見過ごしたのよ!」
カウチに座りながらワインを一口含んで、その友人の男はいいます。
「君だってわたしたちの悪事を知りながら黙っていたじゃないか」
少女はそこで絶句します。
彼女は彼らが悪事を働いていたのを知りつつ、それを見ないことにしてい
たのです。
男たちの悪事によって贅沢できることを彼女自身、十二分に知っていたか
らです。
これは、自分だけが無垢でピュアだなんて思うなよ、という皮肉も込めら
れたすばらしい「門前払い」でした。
弁護士がこっそり教える絶対に負けない議論の奥義
これ↑、本のプロフィール欄に書いてあってちょっと目を引きました。
気にならないですか?
「こっそり」なんて言葉、いらないですよね。
なくても全然通じます。
じゃあなぜ入れているんでしょうか?
こっそりには「秘密」「あなただけに」という「希少性」や「特別視」の
含みがあるからですよね。
みんなこれらに弱いのでコロっとやられてしまいます。
かように、正しい議論の仕方を教えてくれる著者のような人でも、「こっ
そり」含みある表現をプロフィールに忍ばせているのが怖いなぁと思う今日
この頃です。
ガクガクブルブル。
*1: