能力主義社会での生き方→『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』
- 作者: 橘玲
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/09/28
- メディア: 単行本
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この本の結論はさほど目新しいことをいってません。
どこかの本で聞いたことがあるようなものです。
それは暗示的な「伽藍を捨ててバザールに向かえ!恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!」
という帯の言葉に集約されています。
この本の魅力は論証です。
「多重知能」「比較優位」「スモールワールド」、それにや『アンヴィル』*1など数多く
の本や映画などの知見を援用して論を組みたたています。
さて、主題です。
「どうすればこの残酷な世界で生きられるか?」
これですね。
まず、残酷なのはどうしてでしょうか?
それは経済が不景気だということもありますし、能力主義社会ということもあるんです
が、ぼくたちが属している空間に主因があったりするんです。
愛情空間<友情空間<政治空間<貨幣空間
橘さんはこのように僕らが行き来している空間に補助線を引きます。
愛情空間は家族や恋人との空間、友情空間は文字通り友人たちとの空間、政治空間は愛
情と友情空間の両方を指し、そこで行われるドロドロの関係性を示し、最後の貨幣空間と
は貨幣を中心にしたネットワークのことです。
生きるのがツライのは友情空間や政治空間といった閉鎖的な空間がまだまだ幅を利かせ
ていて自由ではないからです。
上司や友達との面倒くさいアレコレいまだに根強く残っているからです。
しかし、現在、貨幣空間が政治のみならず友情空間まで侵食し始めているといってます。
では、具体的に貨幣空間とはなにか?
これ、ようするに、ネットのことです。スモールワールドのことです*2。
ネットによって、日本だけではなく世界中の人とも簡単につながることができるように
なった。
そこではコミュニケーション(Twitter・mixi・Facebook・Blogなど)だけではなく、
ビジネスも可能になった。
そしてこの社会では貨幣よりも評価が重要視される。
まぁ、そうですよね。
ぼくらがネットで指標とするのは、twitterではフォロワー数ですし、ブログではみんな
の評判ですし、観る映画はYahooレビューなんかを参考にしてます。
ようするに、対象に対する外部評価をとても大切にするんですよね。
つまり、評価社会が到来してますよーという話しをしてるわけです。
橘さん、さすがです。
はい。
ここでちょっと話しが飛びます。
現代は能力主義社会です。
能力があるものが稼ぎ、それに特化していないものはあまり稼げません。
僕らはその能力=労働力=資本を市場に投資することで利益を得ています(著者はこの
能力による評価は人種や国籍、性別、容姿や家柄で評価されるよりずっといい、といって
ますがぼくはちょっと懐疑的です)。
では、稼ぎが少ないのが不満だったらどうしましょう?
勝間和代の出番ですよね。
どんどん努力していけばいい。
けど、努力できなければ?
机に向かってじっと勉強することができなければ?
著者は知能は多重的であると『MIー個性を活かす多重知能の理論』を引いて説明します。
それが何か?
えぇ、これが結構関係あるのですよ。もう少しお付き合いください。
ぼくら人間の知能には8つの種類があって、①言語的知能②論理数学的知能③音楽的知
能④身体運動的知能⑤空間的知能⑥博物的知能⑦対人的知能⑧内省的知能⑨実存的知能が
あります。
「ドラえもん」でいえば、ジャイアンは運動的知能に優れ、シズカちゃんは音楽的知能
に優れ、のび太は対人的知能に優れています。
みんなどれかには優れています(「絶対優位」でなく「比較優位」的に、です。念のた
め)では、どうして各人このようにバラバラの知能に優れているのか?
それは遺伝だそうです(笑)。
なので、各人の知能にバラツキがあるのは仕方ないし、別の知能は鍛えづらいといいま
す。
なぜか?
理由は単純で、「好き」じゃないから継続的に努力して鍛えるのがむずかしい、が答え
です。
さて、現在の市場で稼げるのは①と②番です。
これはそこそこのレベルで稼げます。
具体的には学校の先生とか、弁護士とかエリートサラリーマンとかですね。
しかし、③や④はなかなか難しい。
ここではごく一部のトップしか食えないからです(例.プロ野球選手など)。
長くなってきました。
そろそろ繋げます。
現在は貨幣空間=ネット社会=評価社会が主流になりつつあります。
ここで大切なのは評価です。
この評価を利用さえすればなんとか食っていけるのではないか?
なぜなら基本的なインフラがすでに整っているから、自分でビジネスモデル作れるから。*3
そして自分の「好き」は他の人もある程度好きであり、ニッチ市場は存在する(なんか
ここ強引ですw)。
だとすれば、能力を鍛えていき、評価をコツコツあげ、ニッチ市場で販売するビジネス
モデルを作ればなんとか「好き」を「仕事」にして食っていけるのではないか?(ロング
テールを根拠として挙げています)。
たしかに稼ぎは①②に比べて多くはないかもしれない。
公平とはいえないかもしれない。
けれど、お金は幸福の必要条件ではあっても十分条件ではない。
そこそこあれば十分に幸せに暮らせるのではないか?
好きなことを仕事にすれば成功できるなんて保証はどこにもない。
それでもぼくたちはみんな、好きなことをやってなんとか生きていくほかない。
それがこの矛盾した命題を抱えて生きている僕たちが止揚(対立する命題を統合して解
決する)するための「たったひとつの方法」がそれです、という本でした。
*1:「マックジョブ」について言及。ルーティンワークの批判ではなく、「クリエイティブな仕事以外代替可能な時代だ」といいたくて著者は引用してます
*2:参考文献『「複雑ネットワーク」とは何か』 「複雑ネットワーク」とは何か―複雑な関係を読み解く新しいアプローチ (ブルーバックス)
*3:参考文献『仕事をするのにオフィスはいらない』