「書き言葉」をインストールしよう→『文書術ー読みこなし、書きこなす』


文書術―読みこなし、書きこなす (中公新書)

文書術―読みこなし、書きこなす (中公新書)


 ご無沙汰してます。
 映画をいくつか観たのでそのレビューも近々書こうと思うのですが、今日
は本のご紹介です。


 たとえば。
 なにかを伝えようとしてうまく伝わらないことってないですか?
 ものすごい面白い体験をしたのに、相手にはぜんぜん面白がってもらえな
い。すごく怖い体験をしたのに、相手にぜんぜん理解してもらえない。
 ぼくはそんな体験をよくするんですよ。


 つい1時間ほどまえのことなんですけど、車を運転してたらバイク乗りの兄
ちゃんにいきなり怒鳴られたんです。
 あまりにも突然の出来事で「は…?」とすら思えず、ぼーーっとその兄ちゃ
んの顔を眺めていたんです。そしたら、彼、ますます怒りましてね。「このバ
カヤローーーがぁ!!」とすごい剣幕で怒鳴ってきたので心臓がドキドキバク
バクです。「殴られるかもしれない、まいったなぁ」くらいまで考えたのを覚
えてます。
 しかし幸い、彼は殴りこみに来ることなく、怒鳴ったあとスピードをあげて
走り去って行きました。
 あぁぁぁ、助かったぁぁぁと殴打のピンチを脱してぼくはようやく安堵しま
した。


 さて、ここまででちょっと不思議なところがありましたよね?
 なぜぼくのリアクションはしばらく停止(ぼーーーっと)していたのか。
 バカだからってのはなしですよ(笑)。  
 それはですね、因果関係がわからなかったからです。


 バイクの兄ちゃんのぼくが邪魔をしたなら話は分かるんです。あぁ、彼の進
路を妨害してしまったんだ。だから彼は起こってるんだな、って思うことはで
きる。でもそうじゃない。ただまっすぐ、法定速度にしたがって走ってただけ
なんですよ。そしたら後ろにいたバイクがスピードを上げてぼくの車にぴった
りと張り付いて怒鳴ってきた。
 これはねぇ、びっくりしますよ(笑)。それに訳がわかんない。だから怖
いってのもあるし呆然としてしまうんですね。なぜオレは怒られているんだろ
う、と考え込んでしまう。そのときはね、頭でうんうんいって一生懸命考える
んですけど、表情は呆然としたまんまなんです。それが彼の怒りにまた油を注
いでしまったようです。「このヤロー、まったく反省してないな!(怒)」っ
てことで。
 

 と、さきほど体験したこと(だから礼儀正しくしてます。知らない人怖
い!)を書き出してみました。いかがでしょうか?わりと「ふ〜ん。そんな体
験したんだね」くらいには思っていただけたのではないでしょうか?
 これはですね、「話し言葉」を「書き言葉」に変換して書いているからで
す。
 といっても意味がわかんないですよね。
 ご説明します。


 そもそもネタ元は『文書術』という本です。そこに「話し言葉」と「書き言
葉」という概念が紹介されてます。定義を引きますね。

話し言葉は、「今、ここ、私」というフレームが共有されるときに使う言葉で
ある。
書き言葉は、この暗黙に共有された「今、ここ、私」という主観的で特殊なフ
レームを、「いつ、どこで、誰が」という客観的で一般的なフレームに反転・
変換した言葉遣いのことである


 「話し言葉」というのは、「今、ここ」にいる「私」という視点を共有して
いる人と語り合う時のことばです。
 ともだちとミスチルのコンサート行ったとしましょう。彼との会話は「この
あいだの桜井さん、超カッコよかったよな。中盤のあの曲はさいこー」みたい
なものになるかもしれません。友人とならこれで十分通じますよね。「あぁ、
ほんとだよな」で十分コミュニケーションが取れるし、思い出も共有できま
す。
 けど、ミスチルのコンサートに行っていない人にはどうでしょ?たとえば、
その場に居合わせた別の友人のリアクションはどうなるでしょうか?「何が面
白かったのか」まったく分からないですよね。それどころか、「どこで」「い
つ」行われたコンサートなのかすらず、悪くすれば(や、しなくても)、「な
んの話してんの、こいつらは?つまんね」くらいの印象を持たれる可能性大で
す。


 ここで「書き言葉」の登場です。
 書き言葉とは、話し言葉の「今、ここ、私」という視点で見てきた体験を
「いつ、どこで、誰が」という視点に変換したものです。文章化したものとい
う意味じゃないのがポイントです。
 これは文章を書く上では必須の技術です。だって95%以上の体験は「今、
ここ、私」という視点でしたものですからね。それを他者に伝えるときには必
ずといっていいほど「いつ、どこで、誰が」という客観的な視点を持ち込んで
変換しなければならない。「今、ここ」という視点を共有していない人たちに、
モノを伝えるために。


 それが他者にモノゴトを伝える唯一の方法だからです。


文書術―読みこなし、書きこなす (中公新書)

文書術―読みこなし、書きこなす (中公新書)