作品の見方→『ザ・メンタリスト』


ザ・メンタリスト』という海外ドラマを見ました。



 今回は「作品の見方」の話しをします。
そうです。ボク的には「なし」なドラマだったので、なぜなしだと思ったのかにつ
いて書いて逃げよう作戦です。
 
 さて。 
 このドラマの主人公は人の心を読み、思考と行動を操作するような能力がありま
す。それが「メンタリスト」と自称するゆえんです。彼はその能力を活かすために
警察に協力しています。
 ではどうやってその能力を観客に見せつけるのか?
 

 彼ははじめて会った女性のバックボーンや好きな色を見事にあてることで観客に
その能力を見せつけます。
 彼女は「あなたは超能力者なの?」と聞きますが、「いやいや、ぼくは『メンタ
リスト』だよ」と彼は答えます。
 
 でも、それってどんなんだよ?と思いますよね、フツー。説明してもらわないと
分からない。
 そこで彼の能力を説明するために作り手はアホな分析官を用意するんですね、メ
ンタリストと能力を比較するために。現場にいる警官たちは彼の言葉に耳を傾けま
す。
 
 いま主人公は警官と一緒に連続殺人犯のレッド・ジョンという犯人を追っている
んです。で、レッド・ジョンと酷似している事件があったので、彼らは現場に向
かったんです。はい、現場に着きました。
 ここで主人公と対比するために用意された分析官は、その犯行がレッド・ジョン
の手口とおなじだとべらべらと語り出します。
 で、そいつが現場を分析しながら喋っている横で、

「キミの分析はまちがってる。なぜならレッド・ジョンは自己顕示欲の強い人間
だ。ジョンのシンボルマークであるニコちゃんマークは、われわれの目にすぐ入っ
てこない場所に描いている。しかし今回の事件はそうではない。
 なぜ顕示欲の強い犯人が私たちに黙視できるところに描いてないんだ?」


というんですね。


 ここで観客は「ほほー。あんたデキるじゃん」という印象を受けます。
 ただね、これちょっと下手くそなんですよ。というのも、その分析官は文字通り
のアホなんです。
 ぺらぺら口だけはよく動くんだけど、こいつは口先だけだなぁ、という感じの分
析官なんです。観客を一度でも感心させることがない。
 もしその分析官がなかなか賢いことを言っていたら、主人公が相対的にもっとス
ゴいヤツに見えたはずなんですけどね。
 ま、それをしないのは何かの複線なのかな?
 

 さて、ここから連続殺人犯レッド・ジョン犯探しがはじまります。
 この犯人探しというのは、特徴があるんですよね。
 大きくわけると、観客が

 
 1.知っているヤツが犯人である
 2.知らないヤツが犯人である
 

 になります。
 どちらが衝撃的でしょうか?もちろん?ですよね。だから99%のサスペンスも
のは?を採用します。知らないヤツが犯人じゃ、何も驚かないでしょ?知っている
からこそ衝撃的なんです。
 

 次に、
 

 1.予測していたヤツが犯人である
 2.予測していなかったヤツが犯人である
 3.予測していたけど、途中で犯人候補から外したヤツが犯人である

 
 の3パターンがあります。
 このうちもっとも衝撃的なのは3の「予測していたけど、途中で『こいつは偽物
だ!じつはあの警官が犯人だ』」と犯人候補を「自分で」変更するケースが一番お
どろくんですよね。

 
 これは観客の心理操作です。
 どのように観客は犯人を推測するのか。作り手側がそのことを分かっているから
こそできる芸当です。ようするに意図的にミスリーディングさせるんですね。これ
が上手くいっている作品は評価される傾向にあります。
 いまパッと思いつくところでは『ユージュアル・サスペクツ』のカイザー・ソゼ
でですね。未見のかたはぜひ予測してみてください。これだけヒントを出しても、
たぶん犯人はわかりませんから(笑)
  

 さて、本題に戻ります。
 これはメンタリストを名乗るキャラを主人公に添えているんですよね。だから、
観客に「おぉぉ、こいつは頭のいい本物だ。ほんとうに心が読めるみたいだ」と思
わせなくてはいけない。


 なのに、です。
 とっても残念なことが1話のラストで起こっちゃいます。
 主人公のおじさんが殺人犯を追いつめるんですよ。そいつの職場まで押し掛けて
行って。
 その追いつめ方というのは殴る蹴るといった物理的な意味ではなくて、言葉とい
心理的な武器を使って攻めていくんです。
 言外に「実はあんたが犯人なんだろ?」という含みを持たせながら、じわりじわ
りと攻めるおっさんを想像してください。それが主人公です。ま、メンタリストっ
ぽい攻め方ですよね。
 で、そのいやらしい攻撃が功を奏して、ついに犯人がキレて銃を突きつけてきま
す。


 「おまえは知りすぎてしまった。死んでもらうことにする!」


 あぁぁ、ピンチです。つい犯人を怒らせてしまいました。大ピンチです。さて、
彼はこのピンチをどう乗り切るのか?
 

 ここでボクはワクワクしました。
 だいたいね、このピンチというのは作り手があえて設けるものなんですよ。どん
なドラマにも映画にもかならずピンチは入っていますよね?
 ピンチに追い込まれた主人公を見て観客はドキドキする。ぼくたちは唾を飲み込
んで行く末を見守ります。
 その緊迫状況をつくった上で、主人公がピンチから脱すると観客はほっと胸をな
で下ろします。ここでスッキリしてカタルシスを感じる構造になってるんです。だ
からこれは王道的な演出なんですね。
 

 さてピンチです。
 主人公は銃を突きつけてられているのに不適な笑みを浮かべます。犯人は逃げ場
がないと思っているので余裕の表情をしてます。つまり二人とも笑ってるんです。
気持ち悪い画ですね。
 そこで主人公は鎌をかけます。
 「あんたの銃の弾は抜いておいたぜ」
 彼はズボンのポケットのあたりをポンポンと叩きます。
 ここまでで説明していませんが、犯人は主人公のメンタリストとしての能力を
買っているので、つい視線がポケットのほうに向かってしまうんですよ。
 

 キタ!ここです。これは勝機です!
 そこで主人公は机の上に添えられていた造花をガシっとむしりとり、犯人に向
かってそれを投げつけます。犯人はグワアァァとうめき声をあげて苦しみ、主人公
は一時的に難を逃れます。
 

「あ〜、はいはいはいΣ(´∀`||;)なるほどね。ここはショボイ逃げ方をしているけ
れど、ここからが『メンタリスト』としての腕の魅せどどころなのね」
と思って観客は一息つきます。ふーーっ。息が詰まります。

 
 主人公は出口に向かってダッシュしていきます。ダダダダダッ。
 犯人はところ構わずといった感じで銃をぶっ放しながら追ってきます。
 主人公、大ピンチです。すると猛ダッシュしていた主人公のまえに、ひとりの大
男が姿をあらわれます。主人公は彼に向かって「おい!向こうからやって来るヤツ
を打て」と命令します。

 
 ここねぇ、実はびっくりするところなんですよ。や、悪い意味で、です。
 というのも、その大男は警官なんです。主人公の同僚なんですよ。だから銃を
持っているんです。だから大男は主人公の命令を受けて犯人に向かっ銃身を定めま
す。カチャ。それを見た犯人は両手をあげて降参します。
 

 これ、ひどいでしょ?(笑)
 そもそも論をするとですね、その大男警官がその場にいる論理的な理由がないん
ですよ。その犯人を疑っていたのは主人公だけだから現場にいるはずがない人間な
んです。でも、いる。ここがまずヒドい。
 もう一点。
 それはいわずもがなですけど、主人公のあまりのバカっぷりです。
 彼には犯人の家に向かう前にいくらでも準備する時間があったんですよ。にもか
かわらず、犯人をさんざん挑発しておいて、相手がキレたらダッシュして逃げるだ
け。助かるかどうかは運次第!
 おい!それって『メンタリスト』の作り手として失格じゃん! 


 はい。以上、作品語りから逃げた映画の見方論でした。


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