「強い物語」からの贈り物とは?:『エンジェルウォーズ』
調子にのって、今日もブログ更新しちゃいます(笑)。
先日、ザック・スナイダーの新作『エンジェルウォーズ』を観てきたので、
本日はそれをネタにしようかと。
両親がこの世を去り、残されたのは主人公ベイビードールとその妹は、養父
に襲われそうになる。辛くもベイビードールはかわすことができたが、代わり
に妹が犠牲になり殺されてしまう。失意の底に落ちながらも反撃するも、養父
の力によって精神病院に入れられてしまう。そこで彼女はロボトミー手術(自
我を失う手術)を受けさせられることになる。手術執行日まであと5日。
この残酷で辛い現実世界から逃げ出すために、彼女はしだいに妄想の世界へ
足を踏み入れていく…。
まず、この映画、すごくわかりづらい構造になっています。ディカプリオが
主演した『インセプション』と激似です。*1
ざっくりいいますと、現実世界(精神病院)→妄想世界1(娼館)→妄想世
界2(SF的世界)という構造になっています。
主人公のベイビードールは、妄想世界で娼婦としてデビューさせられそうに
なります。彼女は妄想世界1と対決するために妄想世界2で戦います(ゾンビや
ナチやドラゴンが出てくるのはココ)。
この物語は妄想世界の1と2を繰りかえし行き来し、最後に現実に戻ってく
るという構造をしているのです。これを押さておかないと、クライマックスの
『サッカーパンチ』(原題。不意打ちの意)が理解できません。
この映画がすごいのは、世界の力が圧倒的に強力だということです。世界こ
と娼館のボス=ブルー・ジョーンズは主人公たちの脱出作戦の存在に気付きま
す。ふつうの物語なら、敵役は気付きそうになっても気付かないことがありま
すが、この物語はその真逆です。徹底的に鋭い洞察力を発揮し、主人公たちの
たくらみを見抜く。そのため犠牲者も出てきてしまう。
主人公たちのまえには、圧倒的な敵が立ちふさがっているのです。
圧倒的な存在。これ、最近話題の『進撃の巨人』の巨人にそっくりです。あ
のマンガに登場する巨人(最大身長50メートル)は、人間が住む集落にやっ
てきて、ばくばくと人間を喰らいます。大人はもちろん、子どもまで容赦なく
食べ尽くします。そこに大人や子どもといった区別はないのです。これはぼく
たちが生きている現実世界でもおなじことですよね。世界には「大人」「子ど
も」といった概念はありません。
とうぜん人間側も必死の抵抗をしめします。が、圧倒的な力を誇る巨人に太
刀打ちできません。そこで多くの人々の精神は、徐々にニヒリズムに落ちてい
きます。
ここで活躍するのが、主人公エレンです。多くの大人たちの心が折れていく
なか、彼の心だけは折れることがありません。彼はつねに巨人に立ち向かって
いきます。
そんな勇敢なエレンの姿を見て友人は尋ねます。
エレン答えてくれ
壁から一歩外へ出ればそこは地獄の世界なのに
どうしてエレンは外の世界に生きたいと思ったの?
当然の質問ですよね。ぼくなら家に閉じこもっています。
そんな者にとって、エレンの答えは意外でした。
・・・
どうしてだって・・・?
・・・
決まってるだろ
オレが!! この世に生まれたからだ!!*2
圧倒的な強者をまえにしても、自らの「自由」を邪魔させないという強い意
思には感動的です(自由論はカントの格率の話にリンクするのですが、それは
またいずれ)
絶望的な状況に陥ったとき、人の心は簡単に折れそうになります。しかし、
エレンとおなじくベイビードールも戦い抜きます。
現実的には、彼らのように強く生きることはとても困難ですよね。つーか、
無理です。死にたくありません。
ただ、それでもいいんです。このような「強い物語」の贈り物はそこにはあ
りません。
強い物語からの贈り物とは何か? それは、ぼくたちのなかにひとつのロー
ルモデル(指針)を形成してくれることです。さらに言い換えれば、ロールモ
デルとは、心に種(タネ)が植わった状態のことです。
もちろん種はすぐには花を咲かせません。花を咲かせるまでには長い長い時
間がかかります。そこでは、たくさんの後悔や失敗や挫折といった体験が必要
です。しかし、心に種がある限り、いつかは花咲かせるときがきます。
即効性でなく遅効性。(現実の)ヒーローは遅れてやってくる(笑)
それこそが、強い物語からの贈り物なのです。
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*1:インセプション評はこちら→http://d.hatena.ne.jp/sa-hiro/20100803/p1
*2: