母からの卒業:『SUPER8/スーパーエイト』


 ジョーが持ち歩いているペンダントは、いまは亡き母そのものだ。
 母を失ったジョーの顔には、悲しみは見当たらない。しかし、自分と母の写真が納められているペンダントを大切に持ち歩いていることが、母を忘れられずにいることを表している。



 ある日、ボンクラ仲間(+美少女)とゾンビ映画を撮っていると、列車が脱線し大事故が起こる。運よく全員助かるが、ペンダントをイジっているところを美少女アリスに見られてしまう。ジョーは慌ててポケットにしまう。好きな女の子に、母と一緒にいるところなど見られたくはないのだ。


 この母を象徴するペンダントは、スピルバーグの『E.T.』に通じる。映画『E.T.』では、母ではなく父が不在だ。父親がいないことを不満に思っているエリオットのもとに、E.T.というエイリアンが登場し、父の代わりを務める。つまりE.T.とは父親の象徴なのだ。


 ご存知の通り『E.T.』では、E.T.の誘いをエリオットが断り、別れることで幕を閉じる。『スーパーエイト』のジョーも、ペンダントを「手放す」ことで母と別れる。二人の少年は、このように象徴的な父や母と別れることを選択する。


 なぜ幼き少年たちは、父や母から自立することができたのか? 敵(軍隊や宇宙人)と戦うことで成長したからだ。もし父や母がいたなら、「こんな時、どうしたらいいの?」と尋ねることができる。いや、守ってもらうことができる。でも、彼らには頼れる人はいない。自分の頭で考え、判断し、行動するしかない。自分が成長するほかに道はないのだ。


 ジョーの内面的成長は宇宙人との戦いのなかに見ることができる。さらわれたアリスを救出しに行った先で、


「辛いこともある。わかるよ。でも生きていける」


と宇宙人に話しかける。すると、それまで閉じられていた宇宙人の眼がパッと開き、知性を取り戻した宇宙人はその場から去っていく。経験から語られた言葉は、相手の心に届くのだ。 

 
 ジョーは母の喪失を冒険を通じて乗り越えた。そのプロセスは、知り、分かり、できて、教えることで完成する。母の死を知り、時間をかけて理解し、母がいなくても生きられることを証明し、宇宙人へのそのことを教えた。
 宇宙人に向けて語られたこの言葉は、(ジョー本人はこのときまだ気付いていないが)母から卒業したことを示している。