情報を引き出すだけにあらず:『人を動かす質問力』


 「ねぇ、夕飯どうする?」


 こんな質問をよく耳にしますよね。そしていつも答えに詰まります。あまりに回答範囲が広いから。これを「オープンクエッション」といいます。逆に「夕食はしょうが焼きでいい?」というような具体的な質問を「クローズドクエッション」といいます。
 ようするに、回答者にたいして開かれているかどうかがカギです。オープンクエッションには、「じゃ、イタ飯行こっか」から「卵がけご飯でいいよ」まで幅広い回答がありえます。しかしクローズドクエッションには、「いいよ or ヤダ!」の2択しかありません。


人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)

人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)


 そもそも質問とはなんでしょうか?
 相手に思考と回答を強制するものです。答えるべきか否かの義務問題はあるにしろ(初対面のひとに「彼女いますか?」と訊かれてもねぇ)、基本的にスルーはできません。
 とすれば、質問は相手から情報を引き出すだけのものではなくなります。人から好かれたり、逆に誘惑したり、または成長させたり、と相手を動かすコミュニケーションツールなのです。


 1ヶ月ほど前、アップルストアiPad2を買ったのですが、正直買うべきかどうか迷っていました。笑顔のかわいらしい店員さんがiPad2のメリットをプレゼンしてくれたのですが、それでもぼくは「もう少し考えます」断りました。
 店員さんはひとつ質問してきました。


 「高い買い物ですからよくお考えください。ただ現在、iPad2は大変入荷しづらくなっております。もし本日ご購入されない場合、しばらくお待ちいただくことになると思いますが、よろしいですか?」


 うーん、ぜんぜんよろしくないぞ、と思ったのでつい買ってしまったのですが、これは「希少価値」に基づいた質問です。少ないものほど価値がある→これを買わなきゃバカだぞ、と思ってしまう心理を利用したセールストークなんですよね。ゼロ円(無料)ビジネスが跋扈(ばっこ)する現代を生きるものとして知ってはいたのですが、実際に、それも人から質問形式でやられると、ついひっかかってしまったりします。笑顔も可愛かったし。
 バカなんだな、オレは(笑)


 このように、質問は心理(感情)と結びついています。
 だから、相手から反発を招くような質問の仕方はNGです。「人は自尊心のかたまり」(@デール・カーネギー)なので、うっかり傷つけるような質問をしてしまうと、答えてもらうどころか痛い目にあいます。


 先日、税理士試験の勉強をしている友人に、「最近勉強してるの?」と質問したのですが、「そういうおまえはどーなんだよ!」と反撃されてしまいました。こちらとしては、もし時間に余裕があるなら遊びたいなと思っただけなんですが、あちらには悪意ある質問として聞こえてしまったんですね。


 では、人が気持ちよく動くときはいつでしょうか? 自分で決めたときです。どんなに憧れている人や好きな人からの助言でも、ぼくたちはなかなか素直になれません。あの人はああ言うけど、ほんとうはオレの考えが正しいにちがいない、と自分の意見にこだわりがちだからです。まして目的が透けて見えている販売員の売り文句をや、です。
 アップルストアの店員さんは、じつに上手い質問者でした。ぼくがiPad2の購入を決めたと思っているからです。正確にいえば、店員さんの思惑通りに振る舞っただけですが(笑)、こうして客観視している今ですら、自分で決断したと思っていたりします。きっと真性なんでしょうね。


 質問は相手から情報を引き出すだけにあらず。
 相手を動かすために、また、悪意ある質問から身を守るためにぜひインプットしておきたい知識です。