欧米式リーディング法:『外国語で発想するための日本語レッスン』


 正直タイトルに偽りありです(笑)。これは語学の本ではありません。
 むしろ欧米式リーディング(クリティカルリーディング)法についての本といったほうが正確です。
 どういうことか?


外国語で発想するための日本語レッスン

外国語で発想するための日本語レッスン


 日本人の読み方は感覚的であり主観的です。
 入試試験などでは「下線部Aを読んで、主人公はどう感じたと思いますか?」というような問題がときどき出題されます。
 ただ、出題者が「感じましたか?」といっているように、答えはどうしても出題者の主観にならざるを得ません。当たるか外れるかは運次第。宝くじか(笑)。


 欧米人の読み方は徹底的に客観的です。
 テクストを厳密に読み、事実として捉えて解釈し、事実を根拠にして意見を述べるように読みます。だから主観を問うような問題は出てきません。


 例を出しましょう。

 

 
 このイラストからわかることは何でしょうか?
 道路を横断することを禁止しているイラストですよね。


 では、なぜ禁止しているといえるのでしょうか?
「なんとなく禁止っぽい感じがしたから」と答えたいところですが、それでは主観的であり答えになりません。


 まず、イラストから読み取れることを書き出します。


 ・外枠が赤色。赤色は禁止を示す色。信号機の「赤色」は「横断禁止」を示している。
 ・斜めの線は「やってはいけないこと」、つまり「禁止」を表す記号。
 ・場所は外。人物が帽子をかぶっていることから推測可能。
 ・人物は歩いている。左右の手足が一本ずつ前に出ている。
 ・人物は道路を横断しようとしている。道路に片方の足が出ている。
 ・このイラストでは、道路の横断禁止を表している。


 これらはすべて「事実」を元に解釈しています。
 よく観察し、事実を元に解釈することで、ロジカルに答えることができるようになります。


 映画でも同じです。
 ジャック・ブラック主演の『ガイバー旅行記』のオープニングでは、上空から地上を見下ろすように撮られています。高層ビルや列車や人がまるでオモチャのように見える*1


 なぜこんな「構図」なのでしょうか? なぜ地上で撮らなかったのでしょうか?
 これはガリバーという(小人から見たら)大男の物語であることをはじめに予告しているからです。だから巨視的なガリバーの視点を再現するために、上空から見下ろすように撮っているのです。

 
 もう一つ紹介します。
 風景のシーンのあと、主人公が暮らしている部屋に切り替わります。そこには『スターウォーズ』のダースベイダーとルーク・スカイウォーカーが戦っている姿がフィギュアで再現されています。その両者のあいだに大きな顔をしたジャックが突然現れる。これも予告のひとつです。しつこいですよね(笑)。でも、間接的な表現だから、くどいくらいでちょうどなんです。

 作家や画家は意味もなく人物を登場させたり、場所を設定したり、動物を描いたりすることはありません。作品はすべて緻密な計算の上に構築されています。それをやはり緻密に読み解いていく作業が分析の作業であり、分析結果に基づいて解釈し、さらにその結果を多方面から考察するのが批判の過程です。(p17-18)


 主観的な感想文から抜け出すには、客観的な分析→解釈→批判が行えることが必須です。
 このテクストは、そうしたクリティカルリーディングの技法について教えてくれます。
 多くの人を納得させられる自分だけの意見を述べられるようになりたい方は是非。