性の歴史:『セックスメディア30年史』


 特殊から一般へ。
 アダルトグッズであるTENGA(テンガ)が「一般化」されたことは、テレビで芸人が絶賛していたことに現れています。いまではAmazonにも置いてありますからね。


セックスメディア30年史欲望の革命児たち (ちくま新書)

セックスメディア30年史欲望の革命児たち (ちくま新書)


 TENGA以前のものはあまりにもデザインが露骨すぎました。モロに表現されすぎていて卑猥ですらあった。こうした特殊なものが一般化する(普及する)には、デザインなどを変える必要がある。「これを使ってるオレはヘンじゃない」とユーザーが納得できなきゃいけない。


 TENGAはそんな「抵抗感」を払拭しました。


TENGA エッグシックスカラーズ パッケージ <EGG 6COLORS PACKAGE>

TENGA エッグシックスカラーズ パッケージ


 発売した年に100万個以上売れたというTENGA成功の理由は、モノづくり的思想によって作られたモノであることだと思っています。
 モノづくり的思想とは、ユーザーに配慮しているということです。
 TENGAの生みの親である松本社長は、配慮されていない商品群を見て「違和感」を感じられたそうです。

アダルトグッズのコーナーに入った時、ものすごい違和感を感じました。何かおかしいぞ、と。
 その違和感の正体は、すぐに分かりました。当時のアダルトグッズは、バーコードも、社名も、問い合わせ先も、HPアドレスもなかったんです。製造元の会社名がない、お客様相談センターがないというのは、製品としておかしいですよ。そんな製品、他にはないですよ。
(中略)
 そして最大の違和感は、そこに、昨日まで見てきた多くの製品には、当たり前のように備わっている”一般性”が存在していなかったということです。」(p200)


 このような事情から、「一般性」を獲得するために作り始められたそうです。
 調べてみたら、本当に「お客様センター」がありました。
 ホームページもスタイリッシュですごく格好いい。


http://bit.ly/q5FMgr


 このような努力は、アダルトサイトの管理人さんもされています。
 本書には「動画ファイルナビゲーション」(以下、動ナビ)や「DMM.R18」といったアダルトサイトの管理者や担当者たちのインタビュー記事があります。


 動ナビの管理者は「やっぱ、いい動画を紹介したいという気持ちがあるので、そういう一手間(自注:ユーザーが動画を検索しやすいよう背景色をフォント色と合わせる、など)はいる。」と語っています。


 インタビューで明らかになるのは、ユーザー側からは伺い知ることのできない経営努力です。魅力的なアイコンや動画紹介文を作り、ユーザーのアクセス数を増やす工夫をされていたようです。普通のビジネスとまったく変わりませんよね。
 どうせアレな人たちがやっているんだろう、というのは偏見だったことがよく分かります。


 しかし、そうした偏見を持ってしまったことは、ユーザー側の責任だけとはいえません。
「情報の非対称性によって信頼が損なわれてきた」ことも原因だったと考えられます。


「情報の非対称性」とは経済学の用語で、売り手と買い手のあいだに情報の格差がある状態のことです。
 たとえば中古車を買おうとした場合、客は不利な状況に置かれます。売り手が伝えたくない情報を隠している可能性があるし、なにより持っている情報量が違いすぎるから。客は騙(だま)されたくないから車を買い控える。すると売り手は儲からない。ようするに両者が持っている情報量や知識量に差があるため、互いに損をしてしまうのです。


 おなじように、セックスメディアでも情報の非対称性が需要と供給のミスマッチを生んでいました。
 あるアダルトサイトの「動画を見る」をクリックしたら広告サイトに飛ばされたりして、目的地へたどり着くことが大変でした。だからアダルトサイトを信頼することはできなかった。リアルでも事情は同じようです(風俗など)。ユーザー側が不信感を持つのも当然ですよね。


 これを解消したのが「ネットの透明性」です。ネットでユーザー同士が情報を交換したり、あるいは、売り手側がサイトに正しい情報(価格、時間など)を告知することで、不透明だった部分が透明化されていった。
 動ナビはユーザーとの信頼関係を築くことを大切にきたそうで、現在1日に100万件のアクセスがあるとか。すごいですね。


 こうしたセックスメディアの歴史は、ネットというインフラ(技術)や、政治、経済、文化の影響を相互に受けながら、どうじに、与えながら姿を変えてきました。TENGAや動ナビもその例外ではありません。

この世界に性欲がある限り、その意思を継ぐものが現れ、新たなセックスメディアの形を生み出していく。政治、経済、文化、技術がどのように変わっていったとしても、その循環運動を軌道させる欲望が枯れることは、決してない。(p259)


 この先、セックスメディアはどのように変化していくのでしょうか。
 フィールドワークという言い訳のもとで、いろいろ試してみたくなりました(笑)