レンタル6本+『ハッピーフライト』

数日前にTSUTAYAで、


『その男ヴァン・ダム』
ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』
ハッピーフライト
俺たちに明日はないッス』
『秋深き』
トウキョウソナタ


の計六本をレンタルした。
見応えのありそうな作品ばかりである。
個人的に注目していた『その男ヴァン・ダム』は想像していたよりハズレだったけ
ど(ガチな独白シーンはよかった)、『ハッピーフライト』はアタリだった。


(監督:矢口史靖


ハッピーフライト』は矢口監督の作品群(下記2本しか見てないけど)の中でも、
異色のシリアスなトーンで貫かれている映画だ。そこでちょっと意表をつかれた。
スウィングガールズ』や『ウォーターボーイ』では、青春まっただ中を生きる
ティーンエージャーを主役に沿え、ちょこっと大人な人間へと成長するイニシエー
ションを笑いを豊富に交え軽いタッチで描いていた。
本作でももちろん「笑い」は健在だが、トーンは全編ちょっとピリピリ気味(とい
うと言い過ぎだけれど…)。
大人が働く社会の本音(顔は笑ってても、心では怒ってるみたいな矛盾を抱えた人
間たち)を描こうとすれば、こうなるのは必然なのかもしれない。
いや、そうでもないか。
あえて、厳しい大人社会の姿をリアリズムで描いている、といった表現の方が正し
い気がする。


面白いのはパイロットやCA(キャビンアテンダント)という職業にぼくらが仮託
しているイメージと現実はまるで違うということ。
機長試験に臨むパイロット役に田辺誠一を配し、教官(時任三郎)の顔色をうかがい
ながら、問題が発生すると他に八つ当たりしておろおろするという、かなり平凡な
キャラクターを演じさせているのは、ぼくらの頭の中で固定されているイメージを
破壊することとともに、共感を呼ぶキャラクターになっている。
パイロット=エリートだろという、入社試験の競争倍率などのデータ(しかし、そ
れすらも根拠なき憶測)から勝手に推測して無意識的に作り上げている観客の中に
あるその像は、ここで破壊される。
それはパイロットのみならず、CAについてもおなじ。
乗客から雑誌やらドリンクおかわりの注文を受けた綾瀬はるかは、急いで簡易の物
置き場(?)に飛んでいく。
すると、そこで彼女の眼に飛び込んできたのは吹石一恵(先輩CA)がロールパンを
頬張りながら足つぼマッサージ機をふみふみしている姿だった。
吹石は「ほらぁ、あんたぐずぐずしてないでさっさと食べちゃいなさい」といい、
綾瀬は「でも、いろいろ頼まれてて」と反論する。
しかし他の先輩CAは「燃料入れとかないとカラダもたないよ」と、先達の経験談
語り、綾瀬がこれを聞き入れるこのシーンには笑った。
CAと言えば、容姿端麗でスマートな職業という印象をもっていた(同じようなイメ
ージをもっている女子高生が本編にも出てくる)
しかし、それは、航空会社やメディア操作の影響を受けたぼくらが作りあげらた幻
想である(おなじことを、男は「女性」に対してよくやってる)。
ぼくらが見ている現実は、多くの場合、恣意的に意図されて演出された一側面だけ
である。つまり「見せられている」のであって「見ている」のではない。
この「見せられているもの」の裏側にある「見えていないもの」を見るというのは、
とっても魅力的で愉悦的な行為である。
「見えないものを見る」は「分からないものが分かった」ときと同じように、それ
をぼくらは快感だと感じる。だからきっと宝探しが楽しいのだ。
その見えないものを見る積極的な行為が「のぞき」である。
なんとなれば、映画とは観客にのぞき行為を快く快諾し、先入観を壊し再構築する
装置である、ともいえる。


この作品の瑕疵を無理にあげるなら、ラストがいまいち盛り上がらないこと。
矢口監督の演出(主人公たちにピンチを次々と課す→達成してスッキリ)の意図は
わかるんだけど、それが息が詰まるようなサスペンス独特のあのテンションが生じ
ていない(なぜだろう?)。かなりあっさりと事を成し遂げてしまうので、ちょっ
と肩すかしを食う。
あと、ついでにもう一つ。
普段は使えない人にみえるヤツが肝心なときにデキる人になる、という女がホレる
ギャップのある男を岸部一徳が演じているのだけど、彼の活躍シーンがあまりパッ
としないから、女性社員が見直した眼(=観客の眼)で眺める(カメラがフルショ
ットでタバコをおいしそうに吸う彼の後ろ姿を映し出す)姿が、どこか空回りして
る印象を観客に与える。
このあたりもちょっと残念といえば残念。


ハッピーフライト スタンダードクラス・エディション [DVD]

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