草食系男子はガキなのか?

このあいだ読んだ本にちょっと納得がいかないところがあった。
それはこんな文章だった。

倉田 私は、ああいう男性(自注;草食系男子のこと)をすごく幼稚だと思っています。
常に受身で、相手にリードしてもらうことを望む。最近の女子は積極的だから、自分から
口説かなくてもつき合えるし、責任をとらなくてもいい。格好つけているだけの子どもの
ようです。
欲望に対する足腰が弱く、行動がスローモーで、老人みたいだという意味でしょうか(笑)。
いずれにせよ、あきらめ感の漂っている人は、男女問わず魅力を感じないなぁ。
(『こころの薬』,大平健、倉田真由美,p237-238)

こころの薬―幸せになれる診療室 (新潮文庫)

こころの薬―幸せになれる診療室 (新潮文庫)


なんか、すごい言われようなんだよね。
歩いてたら「大人になれよ、このガキが」っていって石をぶつけられた、みたいな。
いまさら草食系男子のことを論じるのもどうかとおもうんだけど、石をぶつけられて黙っ
てもいられないので、ちょっと反論はしておきたい。
倉田真由美さんの論理を図式化するとこうなる。


(暗黙の前提:男は女を欲する。男は女にたいして積極的にアプローチすべきである。)

傷つくのを恐れるのは子どもである(前提1)→草食系男子は傷つくのを恐れている
(前提2)→だから草食系男子は子どもである(結論)


なるほど。
じゃ、とりあえず思考実験してみよう。


獰猛なライオンがいるとする。
こちらはガゼルだ。
ライオンを目にしたガゼルはどうする?
そりゃ必死で逃げるさ。
食われちゃたまらないからね。
だから、草食系男子も逃げているのである。


とするのは、やはりいじわるだし、話がずれている。
倉田さんが論じているのは、女性を誘ったときに断られることの恐怖であって、草食系男
子はそれが怖いから自分のカラに閉じこもって対峙しようとしない。
ゆえに彼らは子どもだ、というもので、なぜか息巻いて怒ってるらっしゃるのだよね。


でもですね、そうじゃないんですよ。
っていうか、倉田さんの暗黙の前提に問題アリなのですよ。
というのも、草食系男子って現実の女性を口説く気があまりないのですよね。
たいへん失礼とは存じますが。
2次元の世界(本やアニメや映画etc)に萌えているほうが、ずっと愉しいので。
だから、誘いを断られることに怯えているのはガキだというのは、そもそも論点がズレて
ます。


いや、おそらくそれは一面の真実を言い当ててはいるだろうし、人間の成熟うんぬんをす
るなら正論かもしれないけど、それとこれとは話がべつ。
煎じ詰めれば、リアルな女性に必死になれるほど興味がもてないだけなんですよ。
そんな草食系男子あいてに「もっと大人になれ」=「肉欲をもっと燃やせ」って叱咤して
もムダなことでございます。
モテの価値観(モテる=よい、モテない=わるい)からは降りてしまっている人たちだし、
そもそも肉に萌える人間じゃないんだから。
ただ、彼らも女性にまったく感心がないわけじゃないですよ。
もちろん。


ふつうとはちょっとちがくて、彼らは「肉」ではなく「精神」に萌えるんですよ。
私見で恐縮ですが、たとえば『イングロリアス・バスターズ』のナチ葬るダイアン・クルーガーとか『ジョゼと虎と魚たち』の池脇千鶴とかに(もちろん現実に存在する女性にだって萌えますけど、DQNなどと比較すると回数がとても少ないとおもいます。そんな頻繁に恋、できませんからね)。
それを「そんなのはリアルじゃない。現実を生きろ」っていうのは意味ないです。
現実ってのは、二次元(観念の世界)のイメージを三次元(現実)に適用させているだけ
の二次元の産物でしかないのだし、それがたまたま具現化(現実化)されているだけだか
*1


そもそもなんで倉田さんはなぜ怒ってるんですかね?
邪推しちゃうと、
「アニメなんかに萌えてないで、リアルな人間(わたしたち)に萌えなさいよね」
というルサンチマンなんじゃないですかね。
だったら、なんかすみません。
「肉」に萌えられない恋愛資本主義の敗者*2なもんですから。
ここはひとつぼくらのことは放っておいてもらって大丈夫ですから、他を当たってくださ
い。
DQN*3なら、そこらにわんさといますよ。 
ね。

*1:詳しくは養老孟司の『唯脳論』を

唯脳論 (ちくま学芸文庫)

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*2:ネタ元を暴露しちゃうと、すべて『喪男の哲学史』です。「現実」に萌えられないひとはぜひ。

喪男の哲学史 (現代新書ピース)

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*3:ドキュン動物化した人々。