みんなが大好きなのは月→『使える!経済学の考え方』


数カ月間ブログのトップに飾っていた本の感想文をやっとうpします。
この本はどこを読んでもめちゃくちゃ面白いんですが、今回は6章のまとめを。


このブログでも触れたことが(たしか)あるけれど、現在の不況の原因は総需要の不足
にある。
需要ってのは、モノやサービスを欲しいとおもうキモチ、と定義しておく。
総需要の不足ってのは、個人がモノやサービスにたいして抱く欲しいという「キモチの
総量」が不足していて、要するにモノが売れないと。


でも、なんで需要は不足するんだろう?
そもそも需要がないなんてありえるのだろうか?
ぼくらはいつも何かを欲しがっているではないか。
では、需要はどこへ行ってしまったんだろう?
疑問はいくつも浮かんでくる。
でも、とりあえず、話をもとに戻そう。
需要が不足する原因として考えられる理由は二つある。


1.買いたいものがないから
2.不確実性から身を守るため


1の理由は当否はともかく、想像はかんたんにできる。
「これは欲しい」と思わせるほど魅力的なものがなかったら、ぼくらはわざわざお金を
払ってまでモノやサービスを購入しない。
ってゆーか、そんなのとーぜんだろ。


2も「不確実性」から身を守るためというとわけがわからないけれど、将来がどうなるか
なんてだれにもわからない(不確実)なのだから、とりあえずカネは貯金しておこうと…。


で、著者が採用している考え方は2の不確実性のほう。
ってか、1は想像はできるけど実感とあわない。
欲しいものなんて日に日に出てくる(本とかDVDとかiPadとかジャケットとか、そりゃも
うたくさん)。
欲しいものがない。だから買わない、というロジックを信じれる人はおそらくいない。
みんな欲しいものがあるんだけど、お金を使っちゃうと心配だから、あえて使わない、と
いう選択をしているように見える。
そして「使わない」という状態を選ぶのは、そこから効用(幸せ)を得ているというの
だ。
でも、「使わない」ことで得られる効用って、具体的にはどんなんだろう?
それは「流動性」である。
ぜんぜん具体的じゃないじゃん、というツッコミはおいておいて(笑)説明すると、流動
性ってのは、モノやサービスを買うことを留保できる効能のこと。
もっとわかりやすくいうと「なんでも買える可能性」のこと。


手元に5万円あるとしよう。
この5万円で来月Appleから発売されるiPadを買うこともできる。

Apple iPad 9.7inch タブレット 16GB Wi-Fi (仮称)

Apple iPad 9.7inch タブレット 16GB Wi-Fi (仮称)

けど買ってみて、「やっぱ要らね」と後から後悔したり(あるある)、「通勤用のチャリ
が壊れちゃったから、新しいチャリが買わなくちゃ」といった突発的なケースだって出て
くる。
そうなった場合、すでに買ってしまったiPadヤフオクに出品したりして、売っぱらって
からでなきゃ別のモノが買えない(で、手元に戻ってくるのは、6,7割でしょうね。モ
ノや人気によるけど)。
つまり、お金を使ってモノと交換してしまうと、流動性が低くなってしまう(チャリが買
いづらくなる、あるいは買えない)ので、みんな「何でも買える可能性」という自由を保
持したいから、お金を求め、モノが余って不況になっちゃってると説明する。
おぉ。なるほど。
経済学者のケインズはこのように人々が流動性を求めることを「月への欲望」といった。
なぜ「月への欲望」かというと、地球にはないもの(月=流動性)を欲しがっているから。
でも欲望が月に向かっちゃうと、地球にあるモノが売れなくて困ってしまう。
本来貨幣はモノやサービスと交換するための「手段」として存在しているのだけど、いま
はみんな貨幣を集めることが「目的」となってしまっている、と。


じゃあ、どうすればいいのか?


そこで出てくるのが「インフレ政策」だ(これは別のエントリに書いたので、そっちを参
照してね)。
ようはお金を刷って、月の価値を減らしちゃおう作戦なのである。
お金がもっと出回れば、価値が減じて、みんなお金を溜め込むばかりじゃなく、使うよう
になるだろうという目論見なのだな(という理解です)。


でも、ここからが本書はちがう。
というのも、貨幣=流動性ではない、それは誤解であると著者は指摘する。
いまたまたま貨幣というものに流動性が憑依していただけであって、次は石油かもしれな
いし、水かもしれないし、ゴールドや外貨かもしれない。
流動性が商品に取り憑けば労働が発生し、失業が減るからいいけど、金や外貨などだと労
働の増加と無関係なものに憑いてしまうと金融政策*1ができなくなっちゃう。
だからお金に憑いている流動性を強引にはがしてしまうのはリスクでもあるという。
これにも納得。
じゃんじゃん金を刷れば良い、という単純な話でないのかもしれない。

*1:買いオペ、売りオペによって貨幣の量を操作することで、物価や景気の調整をしようとする政策