禁じられた数字から身を守るには…→『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』



 ひとつ前のエントリで扱った本の下巻まで読んだので、書評を上げておきます。
 下巻は「使われる側の論理」について書かれていました。
 「使われる側の論理」とは、数字というレトリックに騙されないためにはどうすればよいか、というものです。
 著者はレトリックとしての数字を「禁じられた数字」と呼んでいます。
 「禁じられた数字」とは、「事実だけど人の判断を惑わす数字」のことです。
 それは4つに分類できます。


1 作られた数字
2 関係のない数字
3 根拠のない数字
4 机上の数字


 個別に説明していきますね。


1 作られた数字


 Amazonで買い物するとき、★の数やランキングに目を向けませんか?
 実はその習性を利用している人がいるそうです。
 ランキングで1位をとるために、著者自らが自著を買入れて数字を操作していることもあるようです。
 

2 関係のない数字


 たとえば。
 ジェームズ・キャメロンの『アバター』は構想14年、制作4年の大作だったそうです。
 この「構想◯◯年」は曲者です。「だからスゴいんですよ」と含みをもたせることが可能だからです。だからメディアはこぞって「構想◯◯年」と謳うのですが、構想期間が長いことと本編の質とは本質的に関係がありません。
 では、なぜわざわざ長いことを売りにするのか?

インパクトの強い関係のない数字は、数字が苦手な人を思考停止にさせるにはもっ
てこいの便利な道具(凶器)なのです。(前掲書,p42)


3 根拠のない数字


 これは経済効果のことですね。
 ずいぶん前の話になりますが、倖田來未がブレイクしていたとき、その経済効果が100億円と言われたときがありました。でもどうやってその効果を計測してるんでしょうか?詳しくは>http://d.hatena.ne.jp/sa-hiro/20080701
 ほかにも、野球チームが優勝して安売りすることがあります。
 しかし、それは経済効果と呼べるものではありません。なぜなら、一時的に商品の売上が上がったとしても、その後買わない期間が訪れるからです。
 当然ですよね。安い時期にたくさん買っているんだから、その後、消費は控えられます。
 しかし、経済効果はそこについてはスルーします。経済効果とは「今日の売り上げはよかったな」くらいしか言えないのです。


4 机上の数字


 たまに求人広告の罠をみると、


「時給1000円、月30万も可能」


と書かれたものを見かけます。
 しかし、紙と鉛筆を使って、30秒ほど考えてみましょう。
 簡単な数式を使うと、この広告のウソが見えてきます。


300,000÷1000=300(時間)
300÷30=10(時間)


 時給1000円で月に30万稼ぐとしたら、毎日10時間以上労働しなきゃければ稼ぎ出せないことがわかります。
 休みはもちろんなしです。
 数字上では「可能」でも、現実的には「不可能」なことをさらっと書いているのですね。

数字の受けてである私たちは、数字を見たら疑ってかかる、もしくは、それほど信
頼しないことが必要になってきます。(同書,p54)


 前著『食い逃げされてもバイトは雇うな』では「使う側の論理」が紹介されていました。
 しかし、本書では「使われる側の論理」、つまり防衛のための知恵(視点)が示されています。
 著者は一つの視点を相対化することで価値観を解体し、そのダークサイドからの身の守り方まで示して本を閉じています。
 ぼくらの前に現れる数字には「意味」が持たされいます。それがウィルスのように自然とぼくたちの体に侵入し、悪さをしたりします。気づければ対処のしようもありますが、しかし多くの人にはウィルスを発見する
センサーがありません。
 ぜひこの機会にウィルスバスターのインストールを。