『ご飯を大盛りするオバチャンの店は必ず繁盛する』



島田紳助が経営者であることは知ってました。宮古島にカフェをもってい
ることは有名ですよね。
しかし、ぼくは彼のことを嫌ってました。どこか頭の良いイジメっ子のよ
うで好きになれなかったんですね。
なんですが、ひょんなことから本書を読むことになり*1、驚きました。
実に学ぶべきところが沢山あったのですよ。


本書で痛感したのは、彼の頭の良さです。
読んでいて何度も「あたま良いなぁ」感嘆してしまいました。
いや、ほんとに。


しかし、頭がいいとはどのようなことか。
頭のいい人というのは、こちら側の理解できる範囲の一歩先(あるい
は、それ以上先)を考えられる人のことです。
もし、こちらの理解できる範囲外のことをいっているのだとしたら、そ
れは頭のいい人かどうかぼくたちにはよく分かりません。
そのような人は「ヘンなヤツ」や、悪くすると「頭の悪いヤツ」になり
ます。
『ビューティフルマインド』のラッセル・クロウみたいなヤツですね。


ぼくたちはときどき「あの人は頭がいい」とも口にします。
これが成立するのは承認する側ーつまりぼくたちが存在し、認めるから
です。
当たり前ですよね。
ぼくたちが「頭がいい」と認めなければ、頭のいい人などこの世には存
在しません。
自称、「頭のいいオレ」は論外です。
「頭がいいヤツ」と「他者の承認」とは不可分なのです。


ぼくたちの知っていること、あるいは想像できることを前提にして話を
始めこと。
ここが「頭がいいヤツ」に認定されるためのスタート地点(前提条件)
になります。
そこから、どれだけ面白いことがいえるのか。
ぼくたちを納得(体験知との合致)させ、面白がらせる(気付かなかっ
たところに光を当てるetc)ことができるのか。
それをクリアできた人が頭のよい人です。


さて、本書のなかでキラキラと光る紳助の頭の良さですが、とりわけ
感心したのが、ちゃんこ鍋ビジネスのアイデアです。
彼には京都に行きつけのちゃんこ鍋屋があるそうです。
これを東京で展開させたらどうなるかと考え、思考実験を始めます。


原価は500円くらいだろう。
東京なら一人前1300円は取れる。
粗利(売上ー原価)は一人前あたり800円ほどか。
地代が高いから店は15畳に。
従業員はレジに2人、ホールに1人、厨房に一人いれば回るだろう。
テーブル席は2つ。
あくまで持ち帰り客をターゲットにし、店内では味を確認させるため
だけに。


ここまではただの数字の計算です。そして、ここまではぼくたちにもできることです。紳助のすごいのはこの先です。土地代の高さを逆手にとって、自店に有利な材料に変えてしまうので
す。


狭い店内ではお客さんはほとんど入れない。
しかし美味しいお店ならば(という条件はつきますが)、常時テーブル
を満席にすることができる。鍋を食べて満足した人は、「美味しくてい
つも『満席』のちゃんこ鍋屋を見つけたよ」と口コミ(あるいはネット)
で宣伝するだろう。


紳介はこのようにものを考えます。
たしかに、そのような評価を耳にしてしまったら、行かないことは難し
いですよね。実際に行かないまでも、かなり心惹かれることだと思いま
す。


彼の天才はテーブル席を2つにしたところ。
つまり、つねに「満席」状態であることを演出することで、「すごく
美味しいお店なのだろう」とぼくらに思い込ませてしまうことなんです。
高い地代を逆手にとった見事な戦略ですね。希少性の原理(座席が二つ
「しか」ない)も働いて、よく繁盛するのではないでしょうか。
また、彼の才能はそのよう客の心理をついた戦略にとどまりません。
売れる時代背景まで考えています。


東京とは「オカンのいない街だ」と彼はいいます。東京には地方からや
ってきた人たちが集まってる街だから、オカンのような人がいないさび
しい。そんなさびしい街だから、せめて食べものくらいは温かいものを
食べたいとみんな思うだろうと。だからラーメンのような温かい食べ物
をふうふうして食べものが流行る。
それは鍋だっていいだろうけど、一人分を作るためには余分な材料まで
買わなきゃいけない(単位がでかいですからね。春菊は1袋もいらない
し、大根も1本もいりません)。鍋をしようなんて気にならないだろう。
しかし、みんな、温かいものは食べたがっている。そんな潜在的な客の
ために、京都の本格的な鍋を安く提供してあげたら売れるんじゃないだ
ろうか。


頭いいですよね。すごく論理的であり、オリジナリティがあります。
さいごにもっとも感動したところを引用して筆を擱(お)きたいと思
います。

満足度と値段が釣り合っていれば客は納得する。値段に比べて満足度が
大きれば、この店はお客のために努力してはるんやなあと感動する。
別に高級料理店じゃなくても、学生向けの定食屋だってそうだ。お腹を
空かせた学生の顔を見て、ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁
盛する。
「オバチャンの店に行くのは腹一杯食えるからや」と学生は言うかもし
れないが、ほんとはみんな、オバチャンの気持ちが嬉しいのだ。
客は料理だけを食べているわけじゃない。店の人の気持ちも一緒に食べ
ているのだ。


心の機微を捉えた見事な洞察だとおもいます。

*1:日垣隆氏さんの推 薦本のため