だれもがプレゼンター:『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』
関心のない話を聞くのはつらいものです。
友人の自慢話から、販売員のセールストークまで、周囲には関心をもてない話が溢れています。
もっと上手くプレゼンしてくれたらいいのに。
が、プレゼンは人ごとではありません。ぼくたちは聞き手であり、話し手でもあります。家族に、恋人に、友人に話をするということは、彼らにプレゼンするのこととおなじです。「だれでも名シェフ」*1のように「だれもがプレゼンター」なわけです。
プレゼンの目的は何なのか? 相手の心を動かすことです。
15分もあるこのスピーチは、聞き手をいっさい退屈にしません。むしろ深く引き込み、笑いを誘い、感動を与えてくれます。
第3幕でくり返し語られる「Stay hungry stay foolish(貪欲であれ、愚直であれ)」という名フレーズは、かく生きたいと思わせる力があります。
なぜジョブズの言葉はこんなにも心に響くのでしょうか?
希代のストーリーテラーだからです。加えて、あのAppleのスティーブ・ジョブズが自らの人生における苦労を語っているからです。
カッコよく見せたいなら失敗や挫折の話はしないほうがいい。いかに自分が優れた人間であるか、それを延々語り続ければ。しかし、会社やテレビやネットのなかでさんざん経験しているように、そのような一方的な話し方は聞き手の心を動かしません。むしろ聞き手の耳を閉ざしてしまいます。話し手のなかに聞き手が存在しないから。
先日、ヤマダ電機にTVを見に行ったら、「いま何をお使いですか? 光回線に乗り換えませんか?」と突然売り込まれました。
売り込まれた、と被害者目線から書いていることからも推察できるかと思いますが、すごくうんざりした気分になりました。彼らの頭のなかには「自分」しかいなかったから。
聞き手の頭のなかには、いつも「なぜ話を聞く必要があるのか?」という疑問があります。これに応えられない話には、どうしても耳をふさぎたくなるものです。
だいたい、ウチは光回線を使ってるよ?
順序が逆なんです。
「ユーザーの体験からスタートして技術へさかのぼらなければならない。逆ではいけない」(スティーブ・ジョブズ)
上手でないプレゼンターは、自分の都合を押しつけてしまいがちです。だから聞き手の疑問が解消されず話を聞いてもらえない。
そうではなくて、聞き手の求めているものを提供したらいい。ジョブズが自らの失敗談や挫折を物語ったように、客が抱えている問題を聞きだし、解決案を教えてあげたらいい。きっと相手の心を動かせるはずです。
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