関心と仮説と『探偵はBARにいる』:『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』
まったく同じものを見ているのに、まったく感想がちがう。
面白い人というのは、たいていそれですよね。思ってもいなかった意外なことをいう。
それは「関心」と「仮説」の結果です。
まず、関心を持てば、全体像なり、何かが見えてきます。少なくとも見ようとします。
次に、重要なのは「何を見るか」が分かっていることです。
「判断基準」が分かれば、言い方を変えれば、こうではないかという「仮説」を立てれば、ものがよりはっきりと見えるようになります。(p.11)
ビジネスマンのための「発見力」養成講座 (ディスカヴァー携書)
- 作者: 小宮一慶
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たとえば、映画。
昨夜、『探偵はBARにいる』というサスペンス・コメディを観てきました。
これ、バディームービー(相棒映画)としてはすごく面白かったです。探偵・大泉洋と、その相棒・松田龍平のボケとツッコミの掛け合いが最高で、何度も笑ってしまいました。
探偵の生き様は格好良く、しかし、時にダサくも描かれていて、ダサ格好いいキャラクターづくりにも成功していました。
ほんと絶妙。おそらく『相棒』で磨かれたんだろうなぁ。
ただ、物語の面では微妙なところがあります。
冒頭、BARにいる探偵のもとに依頼の電話がかかってくるシーン。ここでナレーション(探偵によるメタ語り)*1が入り、依頼者が死ぬことが明かされます。が、この予告、じつは後半でまったく生きてこないんです。
本来なら、「(依頼者さん)死なないでくれよ!」、と観客が死を惜しむように作るべきです。そうしないと、予告した意味がないから。でも、そうはならない。依頼者の生死はどっちでもいいと思ってしまう。
原因のひとつは、サスペンス映画特有の構造(情報の明かし方)にあると思います。
サスペンス映画というものは、まず最初に謎があって、それを解き明かすことで終わります。この映画では「依頼者はだれ?」が「謎」。その謎を解くためのヒントを、少しずつ明かしていき、「この人が依頼者でした」でフィニッシュします。
謎を解くヒントを「点」としましょう。その点をべつの点と結ぶと「線」になります。いわゆる「AとBがつながった」というヤツですね。さらに別の線と結ぶと「面」になります。つまり、「依頼者と対立している人たちの関係が見えた」です。さらにべつの面と結び合わせると「立体」になります。これが事件の全体を表す構造です。
サスペンス映画は、小さな点からスタートして、事件の構造を示すことで終わる。ラストでカチカチカチッとすべてがつながって、腑に落ちるように設計されるべきなんです。
でも、そうはならない。本作は「点」そのものが複雑すぎるし、多すぎるから「線」にならない。だから「面」にもならず、「立体」にもならない。
ようするに、点であるヒントが複雑すぎるんですね。ヒントすらうまく理解できないから、観客は全体像をつかみ損ね、依頼者の境遇にも共感することができない。
以上が映画に対する「関心」や「仮説」です。
ぼくは「キャラクター」や「物語」や「機能」というものに関心があります。
だから、
関心1
・こんなに面白いバディムービーは久しぶりだ。
・この脚本を書いたのって、『相棒』の脚本家さんだよな。
仮説1
・てことは、『相棒』を書いたことで、腕が磨かれたんじゃないか? 6年間にもわたって脚本を書いてたわけだから、その線はありそうだよな。(ソース:wikipedia)
関心2
・ぶっちゃけ、依頼者の生死はどっちでもいいよな。
仮説2
・きっと情報量が多すぎるんだ。だから、点が線→面→構造にならない。情報をもっと少なくするべきじゃないか?
・参考にすべき映画は『ユージュアル・サスペクツ』
みたいなことを思いつきます。
仮説はこうして生まれ、これが上で引用した「判断基準」というヤツにあたります。次回からはこの基準をもとに、作品を「検証」できます。
つまり、
検証1+2
1.『相棒』でチェックしてみよう(チェックポイント:掛け合いは年々うまくなった?)
2.『ユージュアル・サスペクツ』*2と見比べてみよう(チェックポイント:情報は少ない方がいい?)
です。
これで仮説の正否がわかります。
仮にハズれていても、修正版の仮説が生まれます。次は、それを検証すれけばいい。すると、関心の深さはさらに増し、より深い発見ができるようになるはずです。
ただし。
ぼくたちの関心は限定的ですよね。世界のすべてに関心を持っているわけじゃない。だからどうしても「幅」が生まれにくい。
では、どうやって幅を広げればいいのか?
関心のないものをあえて見る。これです。
関心のあるもので発見力を磨くことは、わりと簡単です。もともと関心があるんだから、あとは実行するだけです。でも、関心のないものには、その方法論が通じません。だから、「あえてよく見る」が有効なわけです。
たとえば、信号につかまったとき。
左右を見てみる。と、3階建て住宅がある。あえてよく見てみるか。
1階と3階は壁、2階だけに窓がある。あそこにあるのはテーブルとイスだな。ダイニングテーブルか。
ん? でも、なんで見えるんだ? カーテンがないからだ。でも、なぜこんな夜中にカーテンを引いてないんだ?
わかった! あれは「見せてる」じゃなくて「見せてる」んだ。つまり家具の展示場なんだ。
幅はこうして広がっていきます。
*1:事件が片付いた後、探偵がそれを振り返りながら語っている、という設定になります。ここから「なぜ物語が終わったところから語らせてるんだ?」「そもそもナレーションの意味は?」という疑問が生まれ(ry
*2: