10・3・1を抽出する:『つながる読書術』


 ちまたには読書術の類書が無数にあります。
 それらの本と本書はどう違うのか?
「みんな」という視点が入っているところです。


つながる読書術 (講談社現代新書)

つながる読書術 (講談社現代新書)


 読書術というのは、基本的に「個人」の読む力をパワーアップさせるものですが、本書は「みんな」でシェアするための読書術だそうです。
 だそうです、なんて中途半端な書き方をしているのは、本書の半分は個人のため、半分はみんなのための読書術だと感じたからです。4章の「話してつながる読書術」がそれに当たるのではないでしょうか。
 ただ、本を読み、文章を書き、それらを実践していくのは他者にアプローチするためという点を考慮すれば、本書はみんなのための読書術ということでもよいのかもしれません。
 ささやかではありますが、これがこの本に対する「批評」です。


 さて、このエントリは、本書の1章で紹介されていた「10・3・1」読書法で書いてみようと思います(議論ポイントは割愛)。
 「10・3・1」読書法とは、面白いと思った10ヶ所、人と議論したいと思った3ヶ所、これは違う!と思った1ヶ所を抽出する読み方のことです。
「1」については、すでに書きました(笑)。
 では、残りを書いてきますね。

1、「10・3・1」読書法


 上記です。

2、自分の土俵で本を読むということ


 本を読むという行為について、これが抜けていたら損だと思います。「相手の土俵」で読む時期もありますが、それではいつまでも自分の言葉で本を語り、評価することができるようになりません。「この本で著者は○○だと言ってました。なぜなら・・・」という5W1H型の読み方あるいは書き方も有効であり必要だと思うのですが、それだけでは面白さが出せません。
 だから、自分の土俵で読む。

たとえば「ぺたぺた付箋を貼りつけ、思いついたことを欄外に書き込み、一冊につき一〇ヶ所ほどページの隅を小さな三角に折り曲げ、同一書物内の大きな矛盾点にはこれみよがしに×記と参照ページを書き付ける。本の著者にとって大事なところにではなく、私が『?』とか『!』と思ったところだけに線を引く」(p.122)

 こうした「本との格闘」こそ、独自の見解を述べるために必要なことだと思います。

3、原則は迷ったら買う


 ときどき、「いま1800円出すのはキツいし、また今度考えることにしよう」と購入をケチるときがあるのですが、90%以上の確率で買うことになるので、『一般意志2.0』*1(@東浩紀)はしっかり買ってきました(笑)

 

4、素直に読む


 上に書いたように、批評性はたしかに大切なのですが、最初から斜に構えた態度で読んでしまうと、自我や持論を守り強化する牽強付会(けんきょうふかい)的な読み方になってしまいがちです。
 読書の基本は素直に読むこと。内容を検討したり批評したりするのは、次のフェーズで。
 これには激しく同意します。 

5、相手の思考回路に入る

 

 イメージとしては「マルコビッチの穴」のジョン・キューザック*2
 ん? もしかしてわかりにくい?
 では、こちらを。

『偽善形2』(文藝春秋)で佐高信さんについて、単なる批判ではなく愛情と真剣さと(笑)をもった批評として書く(略)にあたり、私は佐高さんの本のすべてを読みました。
(略)
 ほとんど彼の頭になりきって読んでいくうちに、本能的であれ自覚的であれ、彼の隠したい部分や逃げたい部分、触れられたくない部分までわかってきます。
「こういうときには、こう言い返すだろう」「ここで詰むな」という仮説をもとに実際の佐高さんの言動を見ていると、ぴたりと当たる。「意外にもこんなことを言った」ということがあれば、私の頭を修正する。これを繰り返していたら、一時期、私の頭は佐高化しました。(p.69)

 ここまで極端ではなくとも(笑)、「思考回路に入る」ということがよくわかる事例だと思います。
 相手の隠したがってるところや、詰むところまで読めるのはすごいですね。

6、専門用語・ジャーゴン、方言を書き出す


 たとえば2chのジャーゴンにはオワコンというものがありますが、これをわざわざ「すでに終わっているコンテンツ」と紙に書きだすというわけですね。
 2ch用語は頭文字を取って略しているだけのケースが多いので、一度意味を理解してしまえば書き出す必要はないかもしれませんが、たとえば経済学の本を読むときなんかは、限界効用だとか、名目GDPだとか、いったい何のことかわからない難しい専門用語がたくさん出てきますので、こんなときには有効だと思います。
 一度読んだだけではなかなか理解できないし覚えられない。そのまま読み進めてしまうと、頭にうまく入らなく、面白さも損なわれてしまうので、「知らない言葉は書き出して、アタマは他に使おうね」という提案だと受け取りました。
 これも採用決定!

7、大小の仮説を考えながら読む


 正直、これは使えます。
 本ならば目次を読み込み、「こういうことではないか?」と展開を予測しながら本文を読むという順序ですが、映画などにも使えます。
 先日、M・ナイト・シャマランがプロデュースしている『デビル』*3という映画を見ました。映画の冒頭ではデビルに家族を殺害された刑事が登場します。友人との朝食シーンで、その設定が明らかにされているため、この映画のテーマは「赦し」ではないかと仮説を立てました(結果はビンゴでした)。これが「大」の仮説になります。
「小」の仮説は、「なぜ高層ビルを逆に撮しているのはなぜだろう?」というような、演出の意味を問うようなものから、「フードを被ってた男、怪しくない?」という脚本の意図を問うようなものまであると思います。
 ポイントは、当たり外れに関係なく仮説を立てること。これだけで理解力や記憶力がまったくちがってきます。

8、最新作、代表作、処女作を読む


 教養とはパースペクティブ(展望)のついた状態だそうです。この3つの本を読むことは、それらより上位、神様的視点から本を語ることができるようになる。つまり情報を教養化することができる読書法なんじゃないかと思います。
 村上春樹なら、処女作:『風の歌を聴け』→代表作:『ノルウェイの森』→最新作:『1Q84』かな。
 この3つの視点があるとき、歴史込み(「原点・基本・現在」)で春樹について語れるのかもしれません。

9、考えるべきポイントは2つ


 a. 本当のところはどうなのか?
 b. 自分はどう動くのか?


 原発、不景気、失業から恋愛に至るまで、世の中にはさまざまな問題に溢れてます。
 個人的に気になっている問題として、「他者の視線」があります。電車やエレベーターで、ぼくたちは必死に他者との視線を外そうとしますが、あの視線です。目が合うとすごく気まずし疲れちゃうんですよね。視線疲れというか。
 その問題の本質を知るために『まなざしの人間関係』*4という本を読んだのですが、ここにヒントが書いてありました。

 少しだけ補足すると、他者に見られることで彼らの世界に取り込まれてしまった私は、自由に振る舞うことができなくなるんですね。私は観客のために演技する舞台俳優のようなものになり、観客(他者)のためだけに演じ続けなければいけなくなる。これが疲労の原因だとわかりました。
 自分ひとりではとても考え至らないことでも、本の力を借りれば思わぬところまで行けたりします。
 そのとき、「自分はどう動くのか?」。
 この主体性の部分まで考えるというのは、理屈を行動力に変えるためのコツなことだと思います。
 

10、事実、解釈(意見)、文体(話術)の面白さを書く


 書くべきポイントは、何通りもあります。おかげで悩んでしまい、なかなか書けないなんて事態が起こります。そこで以上の3つにポイントを絞って読み書きすると決めてしまうと、かえって書きやすいかもしれません。
 このエントリだけでなく、基本的に僕は解釈(意見)についてばかり書いているので、これからは事実や文体に触れていこうと思います。


 以上がぼく的に面白い10ヶ所でした。
 う〜ん、長くなっちゃった。

*1:

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

*2:

マルコヴィッチの穴 [DVD]

マルコヴィッチの穴 [DVD]

*3:

*4:

まなざしの人間関係―視線の作法 (講談社現代新書 (641))

まなざしの人間関係―視線の作法 (講談社現代新書 (641))